打算家と詩人と

paganini_zimmermann.jpg多感な時期に誰に出逢うかによってその後の人生を決めてしまうと言っても言い過ぎでないと僕は思う。「才能開花」、「転職支援」などのプロジェクトを進めてゆくにあたり、その人が本来持っている役目、役割をまずは自覚していただくことを主眼として内容を詰めていっているが、先天的な能力以上にやっぱり後天的な環境や経験というものが人生の流れを左右するとあらためて思う。いつどこで誰に会うかということも生まれる前から決められたことと言ってしまえばそれまでだが、少なくとも物心ついてからの(大人になってからの)選択はその本人の自己責任の下に為されるわけだから、確固とした意志を持って事に臨むことはやっぱり重要。

人は分岐点に立たされると思い悩む。その時、他人に相談する人もあれば、人にいうことなく悶々と過ごす人もいる。自身の直感に従えばいいものの、感性の鈍った現代人は特に「どうしていいのかわからない」状態に陥る。鋭敏なアンテナを取り戻すことが大事かな・・・。

ロベルト・シューマンは幼少の頃から詩や音楽、哲学などに興味を持ち、その方面に途轍もない才能を発揮した。本人はそれで飯を食うつもりだったろうが、親の許しを得られず一旦はライプツィヒ大学の法科に入学する。後年、クララとの結婚のための裁判で法律書をひも解きながら「財産計算書」を送ったりなど、い
わゆる芸術家とは思えない力量を発揮するが、それは彼が「地に足をつけて生きていくための」躾を一方で幼い頃から植え付けられていたその賜物なのだろうと推測する。ちなみに、裁判中に書かれたクララ宛の手紙には次のような一文がある。

「君は正真正銘の打算家の僕と結婚することになるだろう。僕の手紙でこのことに気づくはずだ。とはいえ、僕の心の中で詩人が抑え込まれることはない。それどころか激しく燃える詩人は恐ろしいのだ」

最終的に若きシューマンに音楽家への道を決断させたのはニコロ・パガニーニだという。悪魔に魂を売ったとまでいわれたこの孤高のヴァイオリニストのリサイタルに身も心も裂かれた彼はいよいよ母親に決断の手紙を送る。

「今僕は十字路に立っています。そしてどこに行くのだとの問いに身が震えるのです。僕の守護神に従うなら、それは芸術の道を指しています」

パガニーニ:24のカプリース作品1
フランク・ペーター=ツィンマーマン(ヴァイオリン)

ロベルトが聴いた演奏会でこの曲が演奏されたかどうかはわからない。それでも、鬼神が乗り移るようなプレイであったなら、誰もが度肝を抜かれるであろう音楽だ。残念ながらこのツィンマーマン盤は技巧的には優れているものの、憑かれたような妖しさに欠ける。以前採り上げたシュロモ・ミンツ盤の方が好きかな・・・。それにしても、もっと不安定で危ない演奏ってないものなのかな・・・。
「打算家」が頭をもたげるような演奏でなく、もっと内なる「詩人」が目覚めるような刺激的な演奏を・・・!!!


4 COMMENTS

雅之

こんばんは。
ツィンマーマンの無伴奏で素晴らしいのは、パガニーニよりも圧倒的にイザイのほうでしょう。
>それにしても、もっと不安定で危ない演奏ってないものなのかな・・・。
>「打算家」が頭をもたげるような演奏でなく、もっと内なる「詩人」が目覚めるような刺激的な演奏を・・・!!!
神尾真由子
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3682461
五嶋みどり
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1451353
ご所望に合致するおススメ盤は、断然この2枚だと思います。
ぜひ聴いてみてください!!

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
神尾真由子盤はお薦めする人多いですよね。
やっぱり凄いですか!
これは聴いてみたくなりました。
ありがとうございます。

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雅之

>神尾真由子盤はお薦めする人多いですよね。
でも、やっぱこの曲で好きな盤は、五嶋みどりのほうかもです。
神尾は元気、五嶋も元気だけど、プラス一種独特の妖気が漂い、これがパガニーニの本質に肉薄しているように感じるからです。

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岡本 浩和

>雅之様
げげっ、五嶋盤の方がより刺激的なんですね??!!
わかりました。
昔から五嶋みどりのあの病的な雰囲気がどうにも好きになれず、結構避けて来たのですが、あえて聴いてみることにします。
ありがとうございます。

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