トゥガン・ソヒエフ指揮NHK交響楽団第1905回定期演奏会

日本のオーケストラのレベルは今や瞠目に価する。
トゥガン・ソヒエフを聴いた。僕は何となくイメージで、彼にソビエト連邦的爆演を期待していた節がある。しかしながら、目にしたもの、耳にしたものは、恣意的な色もの的演奏ではなかった。何と洗練された、エネルギッシュな音楽たちであったことか!ソヒエフは指揮棒を持たない。両の手で宙をつかみ、踊り、的確に指示を出し、魅惑的に、そして想像力豊かに音楽を紡ぐ。

ベルリオーズの「イタリアのハロルド」にとても感銘を受けた。素晴らしかった。
ナルシスト、エクトル・ベルリオーズが、バイロン卿の衣裳を借りて、自らについて物語るその音楽は、間違いなくベルリオーズのものであり、かの幻想交響曲と双生児的な響きを持つが、ほんのわずかにこちらの方が、音楽的に抑制が効いている分、魅力的であるように僕には思われる。もっと舞台にかけられるべき名作だろう。

それにしてもベルリオーズの語り口は見事だ。
ワーグナー同様、登場人物の心情はもちろんのこと、そこで起こる情景を音楽で描写する能力の高さに度肝を抜かれる。何という美しさ、何という喜び。ここには音楽の浪漫がある。

NHK交響楽団の安定感。特に、ぶれない金管群の慄きと、うねる弦楽器群のアンサンブルの妙。そして、ハロルド役の佐々木亮の艶やかで官能的なヴィオラとの協奏に僕は夢見心地。第1楽章「山におけるハロルド、憂愁、幸福と歓喜の場面」は、とても軽妙であり、特に、独奏ヴィオラの芝居気たっぷりの表情に惹かれた(巧い!)。愛する第2楽章「夕べの祈禱を歌う巡礼の行進」の、ヴィオラのあの胸を張った旋律が何と陽気に、何と自信たっぷりに聴こえたことか。もちろん第3楽章「アブルッチの山人が、その愛人に寄せるセレナード」もすこぶる上出来だったが、終楽章「山賊の饗宴、前景の追想」の素晴らしさはピカ一(完全なる大団円!)。聴衆の爆発的拍手喝采に感応!

ソヒエフはとても大胆だ。一方で彼は、とても繊細だ。

NHK交響楽団第1905回定期演奏会(プログラムA)
2019年1月26日(土)18:00開演
NHKホール
グザヴィエ・ドゥ・メストレ(ハープ)
佐々木亮(ヴィオラ)
篠崎史紀(コンサートマスター)
トゥガン・ソヒエフ指揮NHK交響楽団
・リャードフ:交響詩「バーバ・ヤガー」作品56
・グリエール:ハープ協奏曲変ホ長調作品74
~アンコール
・フェリックス・ゴドフロワ:ヴェニスの謝肉祭作品184
休憩
・ベルリオーズ:ヴィオラ独奏付き交響曲「イタリアのハロルド」作品16

前半、リャードフの「バーバ・ヤガー」での、ロシアの民族的素材をいかにも洗練された方法で繰り出すソヒエフの音楽は、冒頭から繊細な力が漲っているように思われた。決して煩くならない強奏が身に沁みた。
ところで、僕は、今日のハーピストはどういうわけかてっきり女性だと思い込んでいた。そんなものだから、長身の男性が出て来て少々吃驚(思い込みとは恐ろしい)。披露されたのはグリエールの協奏曲(何て可憐な独奏!)。第1楽章アレグロ・モデラートの夢みる幻想、前世紀の浪漫を引きずるような音調にまずは拝跪。哀愁満ちる第2楽章アンダンテに、僕はブラームスの影(交響曲第4番)を見た。そして、終楽章アレグロ・ジョコーソの、まるでロシア歌謡という音調に僕はモーツァルトの喜びを思った。

ちなみに、メストレのアンコールがまたセンス満点!
ゴドフロワの「ヴェニスの謝肉祭」は初耳だったが、何と情緒豊かでまたエレガントであったことか。ここでも観客の熱狂!

 

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