ホッと・たいむコンサート 德川眞弓のプーランク「子象ババールの物語」

babar_tokugawa_20140821可能な限り音を抑制し、過剰な「感情」を排したロマン派の音楽たち。リストもショパンも実生活ではかなりの俗物であったわけだが、そして、彼らの生み出した音楽も相当に世俗的因子に溢れるものなのだけれど、不思議に「聖なる」音調に満たされる空間だった。
おそらくそれは、德川眞弓さんの性質(?)に依るところが大きいのだと思う。
いつものように、基本設定は「ゆったりと、そして堂々と」。リストの「愛の夢」が純音楽的に奏される様は、この「歌」が単なる恋愛ソングでなく、そもそも「博愛(アガペー)」を謳うものであることを象徴する。何という「中庸さ」。

ホッと・たいむ コンサート
2014年8月21日(木)
きらりホール
・リスト:愛の夢第3番
・ショパン:ノクターン第20番嬰ハ短調(遺作)
・ショパン:幻想即興曲嬰ハ短調作品66(遺作)
・ショパン:練習曲第3番ホ長調作品10-3「別れの曲」
・レクオーナ:マラゲーニャ
・山田耕筰:ピアノのための「からたちの花」
・プーランク:音楽物語「子象ババールの物語」(朗読・スライド付)
~アンコール:
・グルダ:アリア
德川眞弓(ピアノ)
向後文大(朗読)

ショパンの嬰ハ短調の2つの作品は見事だった。德川さん自身の解説によると、一般的にコンサート会場でアンケートを採った場合、ショパンのリクエストが最も多く、中でも熟年層にはノクターン(遺作)、子どもには幻想即興曲の人気が高いのだとか。なるほど何だかわかる気がする。
今宵のノクターン(遺作)の中間部の、意識しないでいると聴き逃してしまいそうなあのマズルカの部分は不思議にリズムが立って面白かった。そして、いつぞやも聴いたと思う、あるいは音盤においてだったか・・・、德川さんの「幻想即興曲」に痺れた。快速過ぎない悠揚たるテンポで主部が奏でられ、中間部もほとんど高揚を排しながら、再現部で突如として爆発するエネルギーに心動かされた。「別れの曲」のどんなパートも急がず慌てず、安定した音楽が鳴る。
キューバ音楽である「マラゲーニャ」と日本の音楽である「からたちの花」にはやっぱりエキゾチックなものを感じた。そう、音楽の源はダンスなんだ。ちなみに、「からたち」においては2番をすっ飛ばされたらしく、演奏後すぐさま謝りのコメントが入ったが、終演時間のことを考えるとそれも愛嬌かと・・・。素敵な前半があっという間に過ぎ去った。

舞台転換の数分の後、いよいよ、メイン・プロのプーランク。本当に感激した。
何という洒脱さ、何という即興性・・・。プーランクの音楽はもちろんのこと、德川さんのピアノ演奏も当然のこと、向後さんの心のこもった朗読に魅入られた。何といっても「呼吸」、「間」の素晴らしさ。そして、物語の流れに沿って、あるいは振幅に沿って奏されるピアノの妙味・・・。プーランクの音楽が実に生きているのである。

それにしてもジャン・ド・ブリュノフ原作の物語を見事に邦訳したリンボウ先生こと林望さんの力量に舌を巻く(大先生を前にして偉そうだけれど・・・、当たり前か・・・)。今夜のコンサートではスライドの投影もあったのでストーリーが難なく頭に入り、音楽とともに頗る没頭することができた(昨年の上野での御大リンボウ先生とのものも当然最高だったけれど、その上をいくかも・・・)。
最後は、德川さん十八番のフリードリヒ・グルダ。何と亡くなられたお父様のお気に入りの作品だったそうで。
こちらもグルダらしい、インスピレーションに溢れた音楽。

 

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