セバスティアン・ヴァイグレ指揮読売日本交響楽団第625回名曲シリーズ

素晴らしかった。美しかった。
正統なドイツ精神の体現とでも表現しようか、第1楽章アレグロ・モデラート冒頭、ピアノ独奏のパートから醸し出される重厚なエネルギーは、とても安心感のあるものだった(カデンツァを含め、縦横に音楽が舞い降りる独奏ピアノに癒された)。あくまで主役はルドルフ・ブッフビンダー。セバスティアン・ヴァイグレ率いる読響の伴奏に徹した演奏は、終始ピアノに花を持たせつつ、ここぞという瞬間にベートーヴェンの真の創造性を完璧に再現するもの。音楽しか感じさせない、客観的かつ包容力のある演奏にため息が出た。
特に、第2楽章アンダンテ・コン・モートの、ためを作って、ゆっくりと奏される様に僕は感動を覚えた。しかも、通常ならもっと暗澹たる響きを伴うものだろうに、今夜の演奏はとても透明感のある澄んだ音色に支配され、続く終楽章ロンドの喜びとともに、ベートーヴェンの真意(優美、愛、勇気など)を見事に映す最高の出来だったように僕は思う。

ちなみに、アンコールの「テンペスト」終楽章アレグレットの集中力と熱気は、今でも忘れられないくらい。中庸のテンポでありながら、音楽は前進を極め、クライマックスの後、終結の瞬間をピアニストがさらりと奏して腕を下したときの言葉にならないカタルシス。最高だった。

読売日本交響楽団第625回名曲シリーズ
2019年9月20日(金)19時開演
サントリーホール
ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ)
長原幸太(コンサートマスター)
セバスティアン・ヴァイグレ指揮読売日本交響楽団
・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番ト長調作品58
~アンコール
・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番ニ短調作品31-2「テンペスト」第3楽章
休憩
・マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調

後半のマーラーも、一切奇を衒わない、まさに独墺的表現の最右翼。
もちろん第1楽章「葬送行進曲」から気合い十分の演奏なのだが、ようやくドライブがかかり始めたのは第3楽章スケルツォから。

正直、僕はマーラーのこの作品についてはずっと苦手意識をもっていた。あまりにコラージュ的で、悪く言うとどうにも支離滅裂な印象を拭えない音楽が、今夜の演奏によって目を覚まさせられたよう。個の力量とアンサンブルの完全さのバランスが問われ、しかも音量の高低激しい音楽にとって、全体観と見通しの良さは絶対的に重要な要素だが、ヴァイグレの全身全霊の解釈はとてもわかりやすかった。例えば、第4楽章アダージェットはハープの音量を幾分強めにし、弦楽合奏は思い入れたっぷりで、とても官能的。続く終楽章ロンド・フィナーレも慌てず騒がず、流れに身を任せ、大いに歌い、大いに弾ける、喜びに満ちるもの。

ほんの少し交響曲第5番の神髄が僕にも見えたのかも。
最高の一夜。

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