オリヴィエ・メシアンの音楽は、長い説法を聞かされているようである種拷問ではあるのだが、ひとたび核心を掴んでしまうと、長いどころか、あっという間に過ぎ去るエクスタシー(法悦)の瞬間が頻出し、実に消えていくのが惜しく、ずっとその体験の中にいたいと思わせる代物だ。
彼はあくまでカトリックの信者であったが、いわば宗教という有限を超えて、信仰そのものの無限を体得することがメシアンを理解する核心ではないのかと、ピエール=ロラン・エマールのリサイタルを聴いて思った。
中座する人がいるかと思えば、最後はスタンディング・オベイションの熱狂的拍手喝采。人間技とは思えぬ強靭な腕前あってのメシアン音楽。轟音はどこまでも格闘技であり、こぼれ落ちるような弱音はどこまでも祈りであった。
プログラムによると、後に妻となる(完璧な技巧、超人的な記憶力、深い音楽性を持った)イヴォンヌ・ロリオとの出逢いが、驚異的な創造関係を生み出したのだという。
私は最大限に突飛なものを書くことが出来たのです。彼女になら何を求めても大丈夫なのです。至難で、前代未聞のものが頭に浮かんだとしても、それらは演奏されうる、しかも良く演奏されうるのだ、ということがわかっていました。
~藤田茂プログラムノート
何という幸福!!
ピエール=ロラン・エマール ピアノ・リサイタル
2017年12月6日(水)19時開演
東京オペラシティコンサートホール:タケミツメモリアル
ピエール=ロラン・エマール(ピアノ)
・メシアン:幼子イエスにそそぐ20のまなざし
1.父のまなざし
2.星のまなざし
3.交換
4.聖母のまなざし
5.子にそそぐ子のまなざし
6.言葉によって万物はなった
7.十字架のまなざし
8.いと高きところのまなざし
9.時のまなざし
10.喜びの精霊のまなざし
休憩
11.聖母の初聖体
12.全能の言葉
13.クリスマス
14.天使たちのまなざし
15.幼子イエスのくちづけ
16.預言者たち、羊飼いたち、占星術師たちのまなざし
17.沈黙のまなざし
18.恐るべき塗油のまなざし
19.眠っていてもわたしの心は目覚めています
20.愛の教会のまなざし
まるで聖なるアンビエント・ミュージック。
確かにその音楽は、一度や二度体験しただけでは真髄までの理解は不可能だろう。それでも、ただひたすらに、心静かに音に浸ることが大切なのだと思った。
第4曲「聖母のまなざし」が終わって小ブレイク。第6曲「言葉によって万物はなった」の激性はいかばかりか。この複雑怪奇な長い音楽はピアニストの体力をかなり消耗するのか、再び小ブレイクをはさみ第7曲「十字架のまなざし」と第8曲「いと高きところのまなざし」が続けて奏される。第10曲「喜びの精霊のまなざし」は驚異的緊張感を有し、聴衆を圧倒した。
20分の休憩後、後半。
いやはや、すごかった。第12曲「全能の言葉」に痺れ、爆音響く第13曲「クリスマス」と、煌く第14曲「天使たちのまなざし」を経て、第15曲「幼子イエスのくちづけ」の大いなる愛の表現。つけ入るすきのないエマールの演奏に僕は硬直した。
すべては一期一会。
そして、恐るべきは終曲「愛の教会のまなざし」!!
メシアンの想像する「愛の教会」が、エマールの再生によって実現化する妙。ピアニストは身体を大きく揺らし、鍵盤を割れんばかりに引っ叩く。音楽はうねり、舞い上がり、そして、大きく沈み、またうねり舞い上がる。永遠に終わりのないような、無限のループが僕たちの魂を支配するのだ。
最後の音が鳴り終わった後、微動だにしないピアニストを待つこと10数秒。
徐に始まった拍手は、カーテンコールが繰り返されるたびに大きく広がっていった。
「愛の主題」が耳について離れない。
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渡辺です。
私も聴いていました。
先月から「メシアン詣で」が続きますが、
今回も圧倒されましたね。
エマールの求道者の如く鍵盤に向かう姿が印象的でした。
また、演奏時間だけで2時間弱でしたが、
時間の経過を感じさせないところは流石だと思います。
ただ、終曲後の静寂をもう少し味わいたかったところです。
それでは、また。
>渡辺様
圧倒的でしたよね!
メシアンの音楽は数多く実演に触れることで真髄が見えてきますよね。
本当にあっという間の2時間でした。
「アッシジ」然り、です。
[…] なるほど、確かに「トゥーランガリラ」にも鳥らしき鳴き声が聞こえた。 昨年11月の「アッシジの聖フランチェスコ」、12月の「幼子イエスにそそぐ20のまなざし」に続き聴いたメシアンの大作。彼の作品は実演でこそ。 […]
[…] 心の時。エマールの弾くピアノの音とは乾いているのだけれど、妙に瑞々しい。コンサートで聴いたメシアンも、アンコールで聴いたブーレーズのノタシオンもそうだった。 なお、一層素 […]