愛知とし子ピアノ・リサイタル第2夜

早わかりクラシック音楽講座コンサート・シリーズ第2弾「愛知とし子ピアノ・リサイタル」第2夜。お陰様で満員御礼にて終了いたしました。ご多忙の折、駆けつけてくださった皆様には大変感謝いたします。

夕立のお蔭で日中のうだるような暑さから随分気温も下がり、涼しささえ伴った空気の中、ピアノ・リサイタル第2夜がスタートした。スタジオSKホールは初めて使用する会場だが、音の伸び、残響効果など抜群で、開場前のリハーサル時から期待が膨らむ。ピアニスト自身は相当な緊張を強いられていたようだが、あとは本番でベストを尽くすのみ。結果がどんなものであれ、ともかく「やり切る」こと。直前の決して少ないとはいえないストレスというものはかかっていたほうが最高の演奏を呼ぶことが多い。ましてや今回のように、並々ならぬ音楽愛好家の方々が揃うコンサートとなれば、緊張するなという方に無理がある。ともかく僕自身の高鳴る心臓の音を抑えに抑えて開演時間を待った。

早わかりクラシック音楽講座コンサートシリーズVol.2
愛知とし子ピアノリサイタル「華麗なる変身」~リスト生誕200年によせて

2011年6月25日(土)19:00開演
スタジオSKホール

・シューベルト:即興曲第3番変ロ長調作品142-3
よく歌い、そしてシューベルト晩年の無心の心情を反映した演奏。通常、どうしても「長さ」を感じてしまうシューベルトの作品が、これほどまでも愛らしく、そしてあっという間に過ぎ去ったように思えた時ってこれまであっただろうか。

・ショパン(バラキレフ編曲):ロマンス(ピアノ協奏曲第1番ホ短調作品11第2楽章)
バラキレフが編曲したショパンのこの音楽も出色。愛知とし子の真髄はベートーヴェンとロシアものに集約されることを証明してくれる優しさに溢れた演奏だった。ただし、曲が静かな音調になればなるほど、無意識に不要な音を平気で出される(もちろん悪気はない)お客様が特に客席後方に目立ったのは残念だったが(実際にはそういう突発的な騒音ですら音楽を堪能する一部でもあるといえばそうなのだけれど)。

・リスト:愛の夢第3番S.541
・リスト:パガニーニ大練習曲~第3曲「ラ・カンパネラ」、第4曲「アルペジオ」、第6曲「主題と変奏」
今夜の第1の山場であるリストの音楽たち。愛知とし子の新たな側面、これまでの彼女には見ることができなかった精神的に安定した美しい楽音がホールを満たした。その場で耳にしていただいた聴衆の反応もとても良かったように見えたが、それはそういうことなのだろう。特に、第6曲「主題と変奏」は後年多くの作曲家たちが愛着を持ったテーマということもあり、パガニーニの超絶技巧とリストのヴィルトゥオジティを掛け合わしたような「凄み」が感じられ、よかった。

15分の休憩をはさみ、後半。
・メンデルスゾーン(リスト編曲):歌の翼に
・メンデルスゾーン:厳格な変奏曲ニ短調作品54先週の六本木公演と比較してみても、僕的には「厳格な変奏曲」の、作曲家の慟哭にも似た感情吐露のように思える作品の「真実」がより一層伝わる演奏だったと思う。裕福な二流お坊ちゃま作曲家という一般的なレッテルを張替えねばならないと思わせてくれる、メンデルスゾーンの「翳」の部分を見せる名作であり、テンポの緩急を上手く処理して聴衆にアピールした演奏だった。

・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番変イ長調作品110どんなに表面的な瑕があろうと、ピアニストが自身のイメージ通りにいかなかったと嘆こうと、やはり愛知とし子の真骨頂はベートーヴェン作品にあり、この日の演奏もそのことを確実に実感させてくれた演奏だった。速めのテンポで颯爽と駆け抜ける第1楽章の「希望と憧憬」も、少しの乱れを見せながらも強靭なタッチで繰り広げられるベートーヴェンの苦悩を表す第2楽章も、そして「悲嘆の情」から「悟り」の境地に達してゆく様を捉えたフィナーレも素晴らしい出来だった。ここではあえて技術的なミスについては云々しない。そういうハプニング、事故など、すべて含めてライブだから・・・。

僕が愛知とし子の演奏をいつもほめてばかりだから、ひょっとすると身内贔屓で単に持ち上げているだけなんじゃないのかと憶測される方も多いかも(本人すらそう思っているかもしれないし・・・笑)。でも、真実はひとつ。お世辞でも何でもなく、愛知とし子の弾くベートーヴェンは何より「すごい」。

ちなみに、先週同様アンコールにJ.S.バッハ/グノーの「アヴェ・マリア」(愛知とし子編曲)が演奏されたことも付け加えておく。

※ところで、今回も前半後半とも少しお話をさせていただいたが、特に後半、興に乗ってしまい少しばかり長くしゃべりすぎたよう(反省)。そう、みなさん、薀蓄より音楽そのものを聴きたいだろうから。


3 COMMENTS

雅之

おはようございます。

先日は、岡本さん、愛知とし子さんとご家族、ご友人の皆々様他に大変お世話になり、ありがとうございました。とても有意義な時間を過ごすことができました。

リサイタルについては、毎回感銘の質が高くなるばかりで、もう、とっくに、私がとやかく言うレベルにはありません。世界的超一流と呼ばれる演奏家の高価なコンサートでも、これだけの充実感を得られることは稀です。・・・・・・

以下、感想は、愛知とし子さんのブログのほうにコメントを書き込みました。
http://ameblo.jp/mahno/entry-10936085477.html
岡本さんの名解説も、ますます磨きがかかってますねぇ!! 勉強になりました!!!

とにかく最高でした。聴けてよかったです。ありがとうございました。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
こちらこそ遠方より駆けつけていただきありがとうございました。
短い時間でしたが、いろいろとお話しできて良かったです。特に日曜日は2人の特別女性ゲストを迎えて語ることができ楽しかったです。
愛知のブログへのコメントも拝見いたしました。ほめ過ぎです、とは言いません。(笑)
同感です。
今後ともよろしくお願いいたします。

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