詩にせよ音楽にせよ、行間を読みとることが大事だろう。
創造者の心が映える。
けふつくづくと眺むれば、
悲の色口にあり。
たれもつらくはあたらぬを、
なぜに心の悲める。
秋風わたる青木立
葉なみふるひて地にしきぬ。
きみが心のわかき夢
秋の葉となり落ちにけむ。
(オイゲン・クロアサン「秋」)
~「海潮音 上田敏訳詩集」(新潮文庫)P75
いよいよ秋だ。
速めのテンポで颯爽と奏される中にも垣間見える滋味。
四季の移ろいの、瞬きの如くの「間(ま)」を切り取った、秋の気配のそのときを捉えるピエール・フルニエのチェロと、大らかな弦のうねりを支える重心の低い堅固なヴィルヘルム・バックハウスのピアノ。
古い録音から醸される慈悲の魂が、僕の心を鷲づかみにする。
ヨハネス・ブラームスのチェロ・ソナタ第1番ホ短調作品38。
第1楽章アレグロ・ノン・トロッポは、非の打ちどころのない完成形。第1主題の朗々と鳴る悲しみと第2主題の可憐な表情で鳴る慰めの歌。ここからすでにフルニエのチェロの音は深遠だ。続く第2楽章アレグレット・クワジ・メヌエットは、いかにもブラームスらしい翳りを秘めた舞踊音楽。ここでもフルニエのチェロは大いに歌う。そして、終楽章アレグロは、二人の興が乗りに乗り、音楽は見事に前のめり。溌剌とした音楽が調和をもたらす。
ブラームス:
・チェロ・ソナタ第1番ホ短調作品38(1865)
・チェロ・ソナタ第2番ヘ長調作品99(1886)
ピエール・フルニエ(チェロ)
ヴィルヘルム・バックハウス(ピアノ)(1955.5録音)
円熟期のソナタ第2番ヘ長調作品99には、ブラームスの確立した方法に十分な余裕がある。第2楽章アダージョ・アフェットゥオーソの瞑想。ここでの、バックハウスの伴奏ピアノにまつわる深い思念の層は絶品。そして、第3楽章アレグロ・アパッショナートは、いかにもブラームスのスケルツォ楽章であり、文字通り内燃する情熱が心に刺さる。さらに、終楽章アレグロ・モルトは、二重協奏曲終楽章ヴィヴァーチェ・ノン・トロッポにも通じる愉悦の音楽。フルニエのチェロが、またバックハウスのピアノが弾け、呼吸する。