宇宿允人のバーバー

tchaikovsky_4_furtwangler.jpg恒例の「宇宿允人の世界」詣。去年の4月に初めて行って以来5回目になる。この指揮者は偏屈で有名で(笑)、出来不出来の激しいことでも定評がある。昨年12月の「展覧会の絵」など、2日間連続で通ったが初日と2日目の演奏には雲泥の差があった。指揮者の要求に応えねばならない奏者も大変な集中力、精神力を要するだろうし、人間だからダメな日があっても仕方ないと思うが、本当に時に大変な名演奏をするから1回たりとも見逃せない。今日のプログラムはチャイコフスキーの「くるみ割り人形」と交響曲第4番ヘ短調作品36。浪漫的でわかりやすい音楽を書くチャイコフスキーは、クラシック音楽を知れば知るほど軽視しがちになる作曲家だが、今日の「くるみ割り」を聴きながら感じたことは、本当に目も覚めるような描写的で粋な音楽を生み出す天才だなぁ、ということ。この音楽に関してはクラシック通でなくてもおそらく1度や2度は人生の中で聴いたことがあるだろう。フロイデ・フィルはもともと金管が弱いが、この「くるみ割り」にしても「第4交響曲」にしても随分健闘していたように思う。とはいえ、第4はほとんど金管がポイントになるだけあってこの日のために相当強化したと思うが、やっぱり問題は多かった(残念ながら)。

毎々、宇宿さんはアンコール前にコメントをするのだが、今日の言葉は一段と心に響いた。要約すると「とにかく難しい、と。オーケストラの練習一つとっても何日もかかる。そして1日練習するだけで100万円もの出費が嵩む。自分は歳をとって最近は健康でいることも大変だが、身体だけでなく心も風邪をひく。とにかくテクニックばかりを重視するのではなく精神(心)を鍛えよ、教えよと。そして、なかなかクラシック音楽人口が広がらないことへの嘆き。2000人のホールで1600人ほどしか埋まらないのだ(N響にいた10年間で当時の首相は一度も来なかったらしい)。そして極めつけは四川大地震とミャンマーのサイクロンに触れ、天災というより人災だ、と(建築物の手抜き工事など)」。

最後は「世界中の全ての幸せを願って」という言葉と共にアンコールが演奏されたのだが・・・。僕はてっきりJ.S.バッハのアリアを演るのだと直感的に思った。がしかし、やられた!サミュエル・バーバーの弦楽のためのアダージョ。最初の音が奏された瞬間思わず涙が出てきた。日頃バーンスタインの音盤を愛聴しているが、今日ばかりは本当に参った。かのバーンスタインの演奏を超える大演奏であった。このアンコールを聴くだけでも今日は行った甲斐がある。素晴らしかった。

チャイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調作品36
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

フルトヴェングラーの残したチャイコフスキー演奏の名盤。宇宿氏は相当フルトヴェングラーを意識しているのだろう。音楽の造りといいテンポといいかの天才指揮者を髣髴とされるシーンが散見される。この演奏についていろいろと語りたいところだが今日はあえて止めておく。昨日の愛知とし子の弾く「熱情」ソナタもかなり衝撃的だったようだ(本当にみなさまからたくさんのお褒めのメールをいただきました。感謝します)が、今夜の宇宿氏のバーバーもいかしていた。その余韻に浸るべくあえて耳に余計な音は入れないようにしよう。

ところで、本日の公演、第1部が終わった後やけに長い休憩で(30分以上経ったように思う)どうしたんだろうと思っていたら、「観客でヴァイオリンを持っている人がいないか、そしてヴァイオリンが壊れたのでできれば貸してもらえないか」という内容のアナウンスが流れた。会場がざわつく中、さらには主催者らしき女性が舞台に上がりその旨を再度説明した。ありえない。今まで何百回とコンサートに通ったがヴァイオリンが壊れたからという話は初めて聞いた(笑)。大方、第1部の演奏が気に入らなくて宇宿さんが激昂し壊したんじゃないかなどと冗談半分に同行者と笑っていたが、アンコールの厳粛で感動的な演奏を聴くにつけ、そんな思いは吹っ飛んでしまった。休憩時に癇癪を起こしてあんな演奏はできまい。一体何があったのだろう?そしてヴァイオリンはどうなったのだろう?てっきり宇宿さんが説明してくれるのかと期待したが、一切その件については触れなかった。

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