尾高忠明指揮大阪フィルハーモニー交響楽団第52回東京定期演奏会

何と密度の濃い2時間であったことか。
戦火に溢れた20世紀の音楽には、自ずと哀しみが刷り込まれる。そこには翳があり、また光がある。

音の繊細さと迫力と、今宵の大阪フィルの奏でる音楽はとても素晴らしかった。
前半はエドワード・エルガーの名作チェロ協奏曲。
第一次世界大戦による国土の疲弊と自身の創作力の減退に、不幸にも最愛の妻の死が重なるも、悲しみを乗り越えた作曲家の筆は何と神々しいことか。音楽はあくまで人間の感情の表出であることを実感する。第1楽章アダージョ冒頭のチェロ独奏による朗誦の美しさは、個人的な思念を超えた平和の祈り。丁寧に紡がれるスティーヴン・イッサーリスのチェロが、心の安寧を希求し、静けさを維持するも、大音響で鳴るオーケストラの総奏に一層魂が駆り立てられる。全編を通してチェロと管弦楽の高尚なバランスが生き生きと美しいが、特に管弦楽の音は終始哀しみの様相を呈した。

大英帝国の圧倒的な力の終焉を予言するかのようにエルガーは咽び泣く。平穏を祈れと言わんばかりに。尾高忠明の指揮は、いつも同様格調高く、音はうねり、どの瞬間も有機的だった。驚嘆すべきは、イッサーリスのアンコールの「鳥の歌」。文字通り、ため息が出るほどの弱音で、そして無伴奏で奏でられる平和の歌。

大阪フィルハーモニー交響楽団第52回東京定期演奏会
2020年1月21日(火)19時開演
サントリーホール
スティーヴン・イッサーリス(チェロ)
崔文洙(コンサートマスター)
尾高忠明指揮大阪フィルハーモニー交響楽団
・エルガー:チェロ協奏曲ホ短調作品85
~アンコール
・カザルス/ビーミッシュ編:鳥の歌
休憩
・ブルックナー:交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」(第3稿)

後半のブルックナーに僕は久しぶりにぶっ飛んだ。
これぞ大阪フィルの音!!
そして、晩年のブルックナーの衣装を施された、洗練され、完成された第3稿の意味深い音響に僕は唸った。第1稿の赤裸々な、また、鋭利なブルックナーの姿はもちろん素晴らしいが、わかりやすい、集中力に富んだ最終稿の意味がついに僕にも理解できたようだ。

ブルックナーの音楽は、楽想のブロックの、いわば支離滅裂なコラージュのようなものだが、頻発する全休止がこれほど意味深く語りかけてきたことはない。金管群の煌めく音の波動に脳天は痺れ、弦楽器群のアンサンブルのいぶし銀に僕は思わず興奮した。あるいは、木管群の詩情!!
音楽は、楽章を追うごとに進化、深化し、ブルックナーの思考を見事に音化したが、最高というべきは第2楽章アダージョの瞑想、そして、終楽章アレグロの宇宙規模の鳴動!!
それにしても強音と弱音のメリハリの巧みさと躍動よ。

朝比奈御大以来の、最高のブルックナーと言っても過言ではない第3番ニ短調(第3稿)に興奮。
何と素晴らしい交響曲なのだろう。今夜、僕は心から感動した。もはや言葉がない。

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