バッハ・コレギウム・ジャパン ベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」

beethoven_missa_solemnis_20170203751開場後、ホールに入るとステージ上では一人のチェリスト―エマニュエル・ジラールが、指慣らしにバッハのト長調の無伴奏組曲を弾いていた。崇高な聖なる音楽が、当夜のその後に起きるであろう奇蹟を予言するかのように感じられた。
ほぼ一席も残らず埋まった客席の緊張感。
バッハ・コレギウム・ジャパンが初披露するというベートーヴェンに、期待に胸膨らませる様子が明らかだった。

全編を通して予想通りの音響。研ぎ澄まされた、アタックの鋭いピリオド楽器らしい響きと、隅々まで見通すことのできる透明感。なるほど、ベートーヴェンが人類の平和を希求しつつ、ミサ典礼文を規範にしたのはある意味ポーズだったのかもしれない。何より現世的な、そして人間臭い、もっと言うなら俗っぽく親しみやすい音楽がこれでもかというくらいに繰り広げられた。時間を忘れる、あっという間の80分。素晴らしかった。

予想以上にうねり、粘り気のあった第1曲キリエは、冒頭から聴衆を虜にした。少なくとも僕は、その新鮮かつ鋭角の響きにのけ反った。続く、第2曲グローリアの弾力性と激性、そして猛烈なスピードで前のめりに進み行く音楽に卒倒するかと思った。

天のいと高きところには神に栄光
地には善意の人に平和あれ。
われら主をほめ、主をたたえ、
主をおがみ、主をあがめ、
主の大いなる栄光のうえに感謝し奉る。

合唱が「アーメン」と絶叫し終わるや、客席から思わぬ拍手が飛び出しそうになった・・・。やはり誰もがあの激しい人間ドラマに心動かされていたようだ。
一呼吸おいて、第3曲クレド。全曲のクライマックスともいえるこの音楽は、今夜の演奏においても力強さを秘めていた。

われは信ず、唯一の神、
全能の父、天と地、
見えるもの、見えざるものすべての造りぬしを。
われは信ず、唯一の主、イエス・キリスト、
神のおんひとり子を。

嗚呼、ベートーヴェン・・・。とても耳を患う人とは思えぬ立体感。

バッハ・コレギウム・ジャパン
2017年2月3日(金)19時開演
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
・ベートーヴェン:ミサ・ソレムニスニ長調作品123
アン=ヘレン・モーエン(ソプラノ)
ロクサーナ・コンスタンティネクス(アルト)
ジェイムズ・ギルクリスト(テノール)
ベンジャミン・ベヴァン(バス)
鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパン

しかしながら、白眉は第4曲「サンクトゥス」と第5曲「アニュス・デイ」。
僕の印象では、おそらくここから「聖なる世界」に足を踏み入れることになったバッハ・コレギウム・ジャパンの演奏は、一層輝きを増した。特に「ベネディクトゥス」直前の、コンサートマスター寺神戸亮による繊細なヴァイオリン独奏に導かれながら歌われる音楽は、ベートーヴェンの神性と人間性が見事に一体となり、神を見るほどの体現。僕にはそう感じられた。

ほむべきかな、主の名によりて来たる者。
天のいと高きところにホザンナ。

さらに、高みに昇り行く第5曲「アニュス・デイ」の癒し。依然音楽は咆哮し、前のめりに歌われる。

世の罪を除きたもう神の小羊、
われらをあわれみたまえ。
神の小羊、
われらに平安を与えたまえ。

ベートーヴェン最晩年の大傑作は、聴く者を覚醒させる力に満ちる。今宵の鈴木雅明率いるバッハ・コレギウム・ジャパンも気合い十分の、類い稀なる熱演だった。いよいよ「新しい年」が本格的に始まる。

 

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6 COMMENTS

雅之

私も鈴木雅明&BCJは、十八番のバッハや、ハイドンなど実演をいろいろと聴いていますが、和魂洋才と洋魂和才の融合という意味での、最も優れた成果のひとつだとういう感想をもっています。

>いよいよ「新しい年」が本格的に始まる。

今年もなお一層、音盤を「爆買い」してください(爆)。

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畑山千恵子

私も聴いてきました。この作品作曲中のベートーヴェンの肖像画はあまりに有名とはいえ、あまり聴けない作品ですから貴重です。もっと演奏されてもいいと思います。

鈴木雅明さんは、日本キリスト改革派東京恩寵教会での礼拝でオルガンを演奏していますし、バッハの教会カンタータ鑑賞会でも解説をされています。2月11日、教会の礼拝で鈴木雅明さんがオルガンを弾かれますし、カンタータ鑑賞会でも解説をされます。19日はお坊ちゃんの鈴木優人君もオルガンを演奏しますし、鈴木雅明さんも来られると思いますので、カンタータ鑑賞会での解説があります。
東京恩寵教会へのアクセスは恵比寿駅(JR山手線、東京メトロ日比谷線)、代官山駅、中目黒駅(東急東横線)から徒歩5分~12分です。一度いらしてみてはいかがでしょうか。

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岡本 浩和

>雅之様

お言葉を返すようですが、意外に「爆買い」はしておりません。
たまーに気になったボックスを入手するのと、ごくたまにタワレコのセール籠を漁るくらいです。(笑)

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岡本 浩和

>畑山千恵子様

ご案内ありがとうございます。
週末はなかなか時間をとれず、伺うのは難しいのですが、鈴木雅明さんご本人の解説が聞けるとなると貴重ですね。

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雅之

>お言葉を返すようですが、意外に「爆買い」はしておりません。

それは大変失礼しました。まことに申し訳ありません。心からお詫びすると同時に、「爆買い」ではなく「大人買い」に訂正いたします。

返信する
岡本 浩和

>雅之様

ご丁寧にありがとうございます。
まぁ、「爆買い」も「大人買い」も同義ですから、どちらでも良いのですが・・・。(笑)

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