明るくも哀しい四重奏曲

abq_mendelssohn.jpgここ数日はメンデルスゾーンを集中的に聴いている。春たけなわの今頃にちょうど良い「温度感」に心が洗われるのだ。
ところで、メンデルスゾーンは地味ながら6曲の弦楽四重奏曲を書き上げている。そのほとんどは青年期に書かれており、若々しく植物が芽吹くような青々とした色合いはとにかく居心地が良い。
例えば、一般論、というか僕自身の感覚なのだが、弦楽四重奏というジャンルは、色彩がモノトーンで、微風にふっと撫でられるかのような気持ち良さがある反面、突如音の塊が攻撃するような激しさが錯綜する面白さをもつと思う。当然ながらベートーヴェンやショスタコーヴィチのそれがバイブルなのだが、楽聖の初期の作品はともかくとしていかんせん重過ぎて、そうしょっちゅうプレーヤーにかける気になれない側面がある。ところが、特にメンデルスゾーンの最初期のカルテットは「愛」と「哀」に満ちた音楽で、聴いていて少しも邪魔にならず癒されるのだ。

昨日も書いたが知己の友人H-というよりほとんど弟のような感覚でつきあっていた-が亡くなって、何だか日を追うごとに実感が湧いてきて、とても悲しい気持ちに襲われる。ほとんど喪に服すような気持ちで今日もいたものだから、かのメンデルスゾーンの楽曲がより一層心に響く。Hは特別クラシック音楽を好んで聴いていたわけではないので、的外れといえば的外れなのだが、ともかく哀悼の意を表して明るくも切ない音楽を何とはなしにかけながら日中は仕事をしていた。

メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第1番変ホ長調作品12
アルバン・ベルク四重奏団

このメンデルスゾーンの四重奏曲は作曲者20歳の頃の名作。当時、「マタイ受難曲」の復活演奏に向けて奔走していた時期にこの天才作曲家が産み出した「愛」の音楽。何だか今日のような哀しい時に、その哀しみを浄化してくれる力のある音楽なのである。メンデルスゾーンはいわゆる秀才型の作曲家だと思うが、とはいえ神童と呼ばれていた時期もあり、「天才」であったことは間違いない。子どもの頃から英才教育を受け、親のレールに乗っかってきた彼は、ほとんど反抗することなく受身に生きる優しい人間であった。ブラームスが持つようなイジイジした欝的な暗さや、かといってワーグナーのような誇大妄想的な躁的な明るさももちあわせない中庸の音楽がここからは聴こえてくる。
とてもバランスのとれた美しさ・・・。

夜、Aが就職活動中の従兄弟を引き合わせたいというので、新宿のインド・カレー屋で3人で会った。1社内定はとっているものの、彼は彼なりにいろいろと考え、そこに安易に決定するのではなく、まだまだ活動を継続しようとしているところが偉い。とにかく若いうちは考えに考え、壁にぶつかり、悩みに悩んだ方が良い。答えを焦らなくとも良い。

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