シェリング ハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管 ブラームス ヴァイオリン協奏曲(1973.4録音)ほか

昔はレコード1枚が、時間をかけてとても丁寧に作られていた。
音盤そのものが売れなくなり、また数多のレーベルが屹立するという状況の中で、効率性の重視や人工性をなるべく排除するという配慮からかライヴ録音がほぼ主流になったが、たとえ継ぎ接ぎであったにしても、かつてのスタジオ録音の素晴らしさ、いわゆる「レコード芸術」の神髄をあらためて感じる今日この頃。

ゆったりと、堂々たるテンポで開始される第1楽章アレグロ・ノン・トロッポ。
オーケストラによる提示部から余裕が感じられるが、それは独奏ヴァイオリンが登場してからも変わりない。揺らぐことのない、芯のある音色、空間いっぱいに拡がる音の粒に心がときめく。ヨーゼフ・ヨアヒム作のカデンツァの厳しくも優しい音!

ブラームスの、ヴァイオリン協奏曲作曲時のエピソードが興味深い。彼はそのとき、ベートーヴェンの「その箇所を書いていた時、私は全能者である神に霊感を与えられているのを感じていた。神が語りかけている時に、取るに足らない君のヴァイオリンのようなつまらないことに関わっていられると思うのか?」という言葉に深い印象を受け、また触発されたという。

私がヴァイオリン協奏曲を作曲した時感じたように、ベートーヴェンも感じたのだ。覚えているだろう、ヴァイオリン弾きの連中がくつわを並べて、いかにあの作品に刃向かったかを。ヘルメスベルガーはこう宣言してくれた―「ブラームスの協奏曲は、ヴァイオリン向けに書かれていないのではなく、むしろヴァイオリンには不向きに書かれている」。
アーサー・M・エーブル著/吉田幸弘訳「大作曲家が語る音楽の創造と霊感」(出版館ブック・クラブ)P6

いかに周囲の評論家たちが平凡で、一方天才作曲家たちがどれほど非凡で、神とつながっていたかがこのケースからもよくわかる。後述のヨアヒムの予言通り、ブラームスのヴァイオリン協奏曲は、今や最も演奏され、最も聴かれるヴァイオリン協奏曲の一つなのだから。

・ブラームス:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品77
ヘンリク・シェリング(ヴァイオリン)
ベルナルト・ハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(1973.4録音)

優美で調った第2楽章アダージョの極めつけの美しさ。そして、終楽章アレグロ・ジョコーソ・マ・ノン・トロッポ・ヴィヴァーチェの大いなる喜び!
ちなみに、本作に関しブラームスとの対話の中でヨアヒムはかく語る。

独奏ヴァイオリンの扱い方に難点があるとはいえ、この作品は成功し、時間と共にますます人気が出てくるだろう。偉大で霊感を与える音楽だからだ。ヨハネス、私はこう心得ている。モーツァルトやベートーヴェンは、君よりも迅速でよどみなく流れるような旋律を持っているが、君の主題に関する創意の優秀さについては言うまでもない。人に涙させる以上に大きな試金石はなく、私は何度、聴衆の目に宿る涙を目撃したことか。《変ロ長調ピアノ協奏曲》のアンダンテで、チェリストが思い入れたっぷりな音色でオブリガートを奏く箇所だ。しかも歌曲〈私の眠りはますます浅くなり〉で同じ独奏チェロの旋律を見事に用いているが、あれは私の好きな歌曲の一つだ。
~同上書P102-103

ヨアヒムが絶賛するもう一つの作品がピアノ協奏曲第2番変ロ長調作品83。

・ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調作品83
ヴィルヘルム・バックハウス(ピアノ)
エマヌエル・ブラベッツ(チェロ独奏)
カール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1967.4録音)

僕たちの永遠不滅の名盤。
40年前に出逢って以来、何度繰り返し聴いてきたことか。そのたびに新たな発見をもたらし、感動を与えてくれる名演奏。第1楽章アレグロ・ノン・トロッポから音楽の質は別格、人後に落ちず。ヨアヒムが言うように、エマヌエル・ブラベッツのチェロ独奏を伴う第3楽章アンダンテの(涙なくしては聴けぬ)祈り、そして暖かさ!
無骨ながらバックハウスのピアノが跳ね、歌う。それに呼応し、ベーム指揮ウィーン・フィルが色彩豊かに音楽を奏でる様。ここには人と人とがつながり、十分に醸成された信頼がある。

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