ニコラーエワ J.S.バッハ 「フーガの技法」ほか(1992録音)

タチアナ・ニコラーエワ。
来日公演を待たずして急逝した彼女のバッハ演奏は、求道者のそれのようだ。
晩年に録音した「フーガの技法」ほかを収録したアルバムを聴けばそのことはわかる。ここで奏でられる音楽の静謐さ、同時に神々しさ。
バッハの音楽を享受するには、受け取る側の器が重要になる。
ある程度の人生経験を経て耳にする「フーガの技法」は、宇宙的規模の鳴動を喚起する。ここには智慧と慈悲がある。人生の、酸いも甘いも知った中で、複数の旋律が同時に鳴り響き、徐々に発展、そして見事に調和する様に、僕たち人間が本来あるべき姿が投影される。

知性で捉えよという。
また、悟性でも見よという。
もちろん、感性においてもだ。
すべての感覚を駆使して、音楽に臨むとき、世界は必ず開かれる。
あまりに美しい音の綴れ織りに、僕は言葉を失う。

ヨハン・セバスティアン・バッハ:
「音楽の捧げ物」BWV1079より
・3声のリチェルカーレ
・6声のリチェルカーレ
「4つのデュエット」BWV802-805
・デュエット第1番ホ短調BWV802
・デュエット第2番ヘ長調BWV803
・デュエット第3番ト長調BWV804
・デュエット第4番イ短調BWV805
「フーガの技法」BWV1080
・コントラプンクトゥス1(4声)
・コントラプンクトゥス2(4声)
・コントラプンクトゥス3(4声)
・コントラプンクトゥス4(4声)
・カノン1(オクターヴのための)
・コントラプンクトゥス5(4声)
・コントラプンクトゥス6(フランス様式の4声のフーガ)
・コントラプンクトゥス7(拡大と縮小による4声のフーガ)
・カノン2(5度の対位法による12度のための)
・コントラプンクトゥス8(3声)
・コントラプンクトゥス9(12度における4声のフーガ)
・コントラプンクトゥス10(10度における4声のフーガ)
・コントラプンクトゥス11(4声)
・カノン3(3度の対位法による10度のための)
・カノン4(反進行における拡大による)
・コントラプンクトゥス13-レクトゥス(3声)
・コントラプンクトゥス13-インヴェルスス(3声)
・コントラプンクトゥス12-レクトゥス(3声)
・コントラプンクトゥス12-インヴェルスス(3声)
・コントラプンクトゥス14
タチアナ・ニコラーエワ(ピアノ)(1992録音)

「音楽の捧げもの」からのリチェルカーレから人間技を超えた無心の境地。あまりの透明感に驚愕するくらい。晩年のバッハの心境と、(意識せず)晩年のニコラーエワの心境の掛け算とでもいおうか、あらゆる音楽の源となるべき「空(くう)」の音。恐れ入る。「4つのデュエット」も、一切のぶれなく、ただひたすらにバッハの音を具現化する試み。しかし、やっぱり恐るべきは「フーガの技法」。何度聴いても自分のものにし得ない深遠さ、哲学性。宗教的なものを超えた、まるで真我の顕現のような崇高さ。
バッハは美しい。

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