カラヤン指揮ウィーン・フィル プッチーニ 歌劇「トスカ」(1962.9録音)

私は歌に生き、愛に生き、生あるものに
決して悪いことをしませんでした。
私が知る限りの、多くの気の毒な人達には
ひそかに手を差し伸べて救いましたのに・・・
いつも心からの信仰をもって
お祈りを
神聖な祭壇に捧げましたのに。
いつも心からの信仰をもって
お花を祭壇に供えましたのに。
悩んでいる今、なぜ、なぜ、
主はなぜ
このようにお報いになるのでございましょう。

(歌詞対訳:鈴木松子)

「求めて求めず、求めずして求めよ」という。
トスカの歌は、またトスカの愛は、(残念ながら)偽物だった。
トスカは出生不詳の孤児であり、成り上がりの成功者だが、しかし真の愛情を知らずに育った。心底には人間不信が渦巻き、それゆえに病的なまでに嫉妬深い。
舞台設定は1800年だが、まるで現代の諸相、人間模様をリアルに、細密に描くドラマのようだ。

拷問、刺殺、銃殺、そして投身自殺と、陰惨な死の場面が続出する暗澹たる歌劇だが、プッチーニの音楽は極めて美しく、完成度が高い。

神は人が自分でできることをなさりはしない。我らこの世にあって死すべき運命の人間は創造主の協働者であるにもかかわらず、そのことに気づいている者はほとんどいない。たとえば神は木を育てて下さるが、人はもし家を建てたいなら、木を切り倒し、鋸で引いて板にしなければならない。
同じことが作曲家にも当てはまる。作曲する者は、研鑽を積み実践を通して、自らの技巧を磨き上げなければならない。だが神の助けがなければ、永遠の価値を持つものなど何も書くことはできないだろう。この偉大な真理がわかっていない作曲家によって、良質の五線紙がいかに大量に浪費されていることか。我々はこの音楽の分野で、高次の霊の法則と関わりを持っているのだ。

アーサー・M・エーブル著/吉田幸弘訳「大作曲家が語る音楽の創造と霊感」(出版館ブック・クラブ)P175-176

ジャコモ・プッチーニがアーサー・M・エーブルに語った言葉が意味深い。ブラームスと同じく、技術と高次の霊感こそが創造の源泉なのだと。

・プッチーニ:歌劇「トスカ」
レオンティン・プライス(フローリア・トスカ、ソプラノ)
ジュゼッペ・ディ・ステーファノ(マリオ・カヴァラドッシ、テノール)
ジュゼッペ・タデイ(スカルピア男爵、バス)
カルロ・カーヴァ(チェーザレ・アンジェロッティ、バス)
フェルナンド・コレナ(堂守、バス)
ピエロ・デ・パルマ(密偵スポレッタ、テノール)
レオナルド・モンレアーレ(特警シャルローネ、バス)
アルフレード・マリオッティ(看守、バス)
ヘルベルト・ヴァイス(羊飼いの少年、ボーイソプラノ)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1962.9.16, 24-30録音)

カラヤン率いるウィーン・フィルの引き出す美音に心が動く。
当時のカラヤンの、鼻高で横柄な態度は有名だったようだが、さすがにウィーン・フィルの面々は、それを無視し続けたのだというから強者揃い。ここには帝王カラヤンでなく、あくまで一人の優秀な指揮者、音楽家としてのヘルベルト・フォン・カラヤンが対峙するのだ。

ささいなことでも、音楽家カラヤンを見る眼は歪められてしまう。例えばウィーン・フィルの楽員たちは、彼らが演奏旅行したときに、空港ではカラヤンが最初に搭乗するために殊発ラウンジを通過するまで、誰も経ち上らなくてよいという指示をされたことを、けっして忘れなかった。
彼らがうんざりしたのには、2つの理由があった。まずは、楽員が立ち上がるだろうと彼が決め込んでいること(舞台ではない公共の場でそんなことをしたら、控えめに言っても、奇妙に見えるだろう)。そして、彼らに立ち上がられたくない理由は、自分の背の低さを気にしているからだろうということだった。長身の人物には座っていてもらうか、あるいは自分が高いスツールに腰掛けてしまうかしないかぎり、我慢ができないのだ。
こんな性格的欠陥がこんなにも力強い音楽性と調和するのは、不可能だろうと感じた。彼の芸術的判断力がその性格的欠陥に支配され、影響されているようなときには、辟易せざるを得なかった。

ジョン・カルショウ著/山崎浩太郎訳「レコードはまっすぐに あるプロデューサーの回想」(学研)P278

それにしても音楽が、その人の性格性質とは相反して、影響を受けたいという点が面白い。カラヤンは耳が良かったのはもちろんだが、間違いなく統率力と、音楽に対する全体観はあったのだろうと思う。

トスカに扮するレオンティン・プライスの絶唱が聴きもの。
物語の凄惨さに比して、音楽の持つエネルギーの半端なさ。

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