「ヘネラリーフェにて」。
この、幻想的な音調の協奏作品は、まるで夢の中にあるようだ。
音楽は僕たちの想像力をかき立てる。居ながらにして、スペインのかの地に想いを馳せるとき、時間と空間を超え、世界は一つになる。何よりマルタ・アルゲリッチのピアノの内なる情熱と軽快な指さばきが、音楽に一層の活気をもたらせる。
切れ目なく続けて奏される、「はるかな踊り」と「コルドバの山の庭にて」の、印象主義と民族主義の折衷がもたらすスペイン情緒に拍手喝采。生きることを謳歌するリズムとハーモニーの饗宴こそマヌエル・デ・ファリャの意義。
古都グラナダにある庭園ヘネラリーフェは、元々はイスラム教徒モーロ族の王の夏の住まいだった。そしてまた、コルドバもモーロ族の王が住んだ都だった。
ヘネラリーフェもコルドバも、極めて美しい庭園であり、情緒溢れる都市だが、そこにはレコンキスタという、(宗教的)征服を正当化した人類の矛盾がある。世界の歴史は、闘争と領土争いの歴史だ。
聴けば聴くほど味わい深い逸品。
気のせいか、アルゲリッチのピアノが何とも儚い。いつもの彼女のような奔放さよりも、抑圧された、哀感に打ちひしがれた音がそこにはある。おそらくそれがこの作品にまつわるアルゲリッチの想いなのだ。だからこそ逆に音楽は、一層生き生きする(特に第2楽章「はるかな踊り」!)。
アルベニスの友人であった指揮者のエンリケ・フェルナンデス・アルボスの管弦楽アレンジによる「イベリア」からの5曲も、原曲のピアノ版とはまた趣きを異にする色彩豊かな音楽。バレンボイムはアルボスの意図とは別に、曲順を変更してとり上げているが、町の喧騒と人々の豊かな心の様子を見事に音化しており、素晴らしい出来だと思う。世界には祭というハレの舞台があり、それによってケという抑圧された日常が一層明瞭になる。いかにそのゆらぎと起伏、そして対極の雰囲気を捉え、音にするかが鍵。浪漫家ダニエル・バレンボイムの真骨頂。