ローレンツ クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィル ワーグナー タンホイザーのローマ語り(1942.1録音)ほかを聴いて思ふ

洞察力、または直観力は、人が人として生きる上で最も大切な能力のひとつであるにもかかわらず、現代人の多くが失ってしまっている能力だといえる。英訳して”Insight”と表記すると、それは一層的を射ていて、わかりやすいかもしれない。

名指揮者、名演奏家の名演奏と称されるものの根底に流れるものは、まさに”Insight”だと僕は思う。

ハンス・クナッパーツブッシュのワーグナーには凡人の想像を凌駕する洞察力と直観がある。一方、正反対の芸術のように捉えられなくもないウィンナ・ワルツにも驚くべきそれがある。晩年の演奏は、正規録音にせよライヴ録音にせよ神々しいばかりの、言語を絶するパワーとエネルギーが漲るのは当然ながら、多少のムラがあるとはいえ、戦時中の録音にも他の音楽家にはない、どうにも不可思議なパワーが横溢する。やはり彼は比較対象の存在しない稀代の天才なのだとあらためて思う。

ワーグナー:
・歌劇「リエンツィ」序曲(1940録音)
・楽劇「神々の黄昏」~ジークフリートのラインへの旅(1942.1録音)
・歌劇「タンホイザー」~タンホイザーのローマ語り(1942.1録音)
ヴェルディ:歌劇「アイーダ」~大行進曲(1940録音)
ツィーラー:ワルツ「ウィーン娘」作品388(1940録音)
ヨハン・シュトラウスⅡ&ヨーゼフ・シュトラウス:ピチカート・ポルカ(1940録音)
ヨハン・シュトラウスⅡ:ポルカ「浮気心」作品319(1940録音)
マックス・ローレンツ(テノール)
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

マックス・ローレンツを独唱に据えた「タンホイザーのローマ語り」の、激しい懺悔に震える波動と、ローマへの巡礼行を語る潔さ。そして、それを見事に支えるクナッパーツブッシュの音楽の深層にあるのはやはりワーグナーへの飛び切りの愛だろう。興味深いのは、珍しくもヴェルディを振る彼の方法のベースにあるのも、ヴェルディの音楽への一方ならぬ愛だ。人口に膾炙した「大行進曲」が何と瑞々しく、また柔らかく響くことか。
また、シュトラウスのポルカは、晩年の演奏に比較して「遊び」は確かに少ないが、真摯で愛らしい表現。「ピチカート・ポルカ」は、クナッパーツブッシュとは思えない優しさを秘める。

クナッパーツブッシュの解釈は明確でありながら個性的なものでした。しかし、その演奏がいかになしとげられるか、それは書き表わすことなどできない彼だけの秘密でした。
(フランツ・ブラウン)
フランツ・ブラウン著・野口剛夫編訳「クナッパーツブッシュの想い出」(芸術現代社)P9

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