シュタイン指揮バンベルク響 ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」(1987.10録音)ほか

第4交響曲「ロマンティック」はどうしても徹底的な校訂がとり急ぎ必要であるとの結論に達しました。たとえば、「アダージョ」にはヴァイオリンのパッセージがありますが、これはあまりにも華美で演奏不可能です。また、楽器法が随所で凝りすぎていて落ち着きがありません。この作品を極めて高く評価してくれているヘルベックでさえ同じ意見で、彼のお陰でこの交響曲を部分的に書き直す決心が固まりました。
(1877年10月12日、ベルリンのヴィルヘルム・タッパート宛)
「音楽の手帖 ブルックナー」(青土社)P56

天才の自己批判は底なしだ。

ホルスト・シュタインのブルックナーが懐かしい。
昔、FM放送から録音したNHK交響楽団との交響曲第9番を僕は長らく愛聴していた。あれは、壮大で崇高な、そして職人気質の立派な演奏だった。

久しぶりにホルスト・シュタインのブルックナーを聴いた。交響曲第4番「ロマンティック」は初めてだ。何だか改訂版のような分厚い音に、そして、相変わらずのいぶし銀のような音色にとても感動した。

シュタインの音楽にあるのは安心感である。脈々と築き上げられてきたカペルマイスターの歴史をそのまま音に刻印する安心感。ことさら弾けることなく、抑制された中で金管が咆哮し、打楽器が轟き、弦楽器がうなる、僕はこういうブルックナーがとても好きだ。第1楽章から湧き出ずる愉悦は、他の追随を許さない。何より第2楽章アンダンテ・クワジ・アレグレットの堂々たる、そして静かな歩みに感動を覚える。そして、第3楽章スケルツォの光輝よ。同時に、クライマックスとなる終楽章に溢れる宇宙規模の歓喜に快哉を叫ぶ(コーダには言葉にならない極めつけの解放がある)。

・ワーグナー:歌劇「リエンツィ」序曲(1986.10録音)
・ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」(1987.10録音)
ホルスト・シュタイン指揮バンベルク交響楽団

ワーグナーの「リエンツィ」序曲も安定した渾身の出来。

ワーグナーの生涯は「逃亡」の連続である。あるときは債権者の追求を逃れるための、夜逃げ同然の逃避行だった。それまで歌劇場の指揮者をしていたリガの町を脱出し、バルト海経由でパリを目ざしたときがそうであり(1839年)、贅沢三昧の生活が祟って首が回らなくなり、さし迫った債務拘留の危険を避けてヴィーンを逃げ出したときがそうである(1864年)。またあるときは官憲に追跡されて逃亡しなければならなかった。ドレスデン蜂起のさいに革命側に加わり、人相書つきの逮捕状が出回って、命からがらザクセン王国を後にしたときがそうである(1849年)。せっかくのルートヴィヒ二世の愛顧を受けながら、反対勢力の術中に陥って追放処分になり、ミュンヘンを去ったときも一種の逃避行だろう(1865年)。そのほか、未遂に終った逃亡計画もある。行きずりの恋人、ジェシー・ローソと近東方面への駆落ちを企てたときがそうである(1850年)。ワーグナーの生涯を展望して、そこに「逃亡」というライトモティーフが一貫しているのを発見したのは、彼の後半生の伴侶となったコジマである。彼女の慧眼は、複雑に織り成された風雲児の生涯の織り物の一本の赤い糸を読みとった。
三光長治著「カラー版作曲家の生涯 ワーグナー」(新潮文庫)P9-10

これほど業が深ければ救いようがないのだが、しかし、ワーグナーが晩年に行き着いた「再生論」を思うにつけ、「逃亡」を繰り返しながらも結果的には生き永らえた彼の魂の高尚さ(?)と、残された作品の気高さを信じざるを得ない。シュタインのワーグナーは常識の範囲を出るものではないが、間違いなくワーグナーの魂を扱っている。それくらい彼はワーグナーに献身的だということだ。

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