ランチタイムコンサートVol.112 特別企画 松田華音

ホールの音響特性も手伝ってか、弱音は実に美しく嫋やかで、強音はうねりを伴った、腹に沁みる轟音でその対比がまた無理なく音楽的でとても素晴らしかった。

開演直前のホール内は、また一際静かだったように思う。緊急事態宣言が解けた秋晴れの日の平日日中だというのに、彼女の演奏を待ち望んでいたのだろう、とても大勢の人々が詰めかけていた。ピアニストの登場にあわせて静かな拍手が起こる。最初のドビュッシー前奏曲集第1巻からの諸曲からデュナーミクを際立たせた、驚くべき表現に僕は鳥肌が立った。「アナカプリの丘」冒頭の静かで優しい音に癒され、突如として響く大きな音圧に唸った。一呼吸おいて奏された「亜麻色の髪の乙女」は絶品だった。そして、「ミンストレル」の喜び、また「雪の上の足あと」の透明感。さらに第2巻より「風変わりなラヴィーヌ将軍」の機微、どれもが物語を聴くように、実に鮮明な映像が描かれるようで、ドビュッシーの意図を上手にくみ取った、テクニカルで美しい「音楽」だった。

ショパンのスケルツォも、同じく物語を思わせる、主題は激しく、中間部は一層柔和で、そのコントラストが本当に見事に表現されていたことに驚嘆。第1番も第2番も劇的な、何とも男性的な響きと優しい、女性的な響きが混交した、ショパンの陰陽2つの側面が上手に歌われたもので、中でも第3番が完璧なコントロールの下、ショパンの当時の心情を顕した名演奏だったように僕は思う。

ランチタイムコンサートVol.112 特別企画
松田華音
2021年10月11日(月)12:15開演
トッパンホール
松田華音(ピアノ)
ドビュッシー:前奏曲集第1巻より
・第5曲「アナカプリの丘」
・第8曲「亜麻色の髪の乙女」
・第12曲「ミンストレル」
・第6曲「雪の上の足あと」
ドビュッシー:前奏曲集第2巻より
・第6曲「風変わりなラヴィーヌ将軍」
ショパン:
・スケルツォ第1番ロ短調作品20
・スケルツォ第2番変ロ短調作品31
・スケルツォ第3番嬰ハ短調作品39
ラフマニノフ:絵画的練習曲集「音の絵」作品33より
・第2番ハ長調
・第6番変ホ短調
・第7番変ホ長調
・第8番ト短調
ラフマニノフ:絵画的練習曲集「音の絵」作品39より
・第1番ハ短調
~アンコール
ラフマニノフ:「楽興の時」より
・第6番ハ長調作品16-6

最後のラフマニノフの諸曲においては、不覚にも珍しく居眠りしてしまったのが痛恨。「音の絵」作品39より第1番の最後の音が鳴り響いた瞬間に湧き起った拍手喝采で現実の世界に戻った僕は、確かに彼女のラフマニノフも素晴らしかったのだけれど、ドビュッシーにしてもショパンにしても、またラフマニノフにしても「同じ波動」「同じ波長」で奏されていたことに多少の物足りなさを感じたのかもしれないと後々思った次第。もちろん一人のピアニストが演奏するのだから、色合いが似ているのは当然だけれど、それでも作曲家の思念はまったく別物であり、その作品が生み出された時代背景、土地柄の違いを考えると、流儀をコントロールできるようになるとより名匠の域に近づくのかもと(上から目線だが)思った次第。アンコールのラフマニノフは素晴らしかった。

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