Vanilla Fudge (1967)

ヴァニラ・ファッジのファースト・アルバム。
ビートルズの諸曲をカバーし、しかもそれが原曲よりも長尺で異様なヘヴィさを獲得した演奏だったから若かった僕は当時度肝を抜かれた。他にも、カーティス・メイフィールドの生み出した「ピープル・ゲット・レディ」も、ジェフ・ベックのカバーで長年親しんでいるものの、やはり長尺で、カバーというよりほとんどパラフレーズという印象の(マーク・スタインのオルガン風キーボードの敬虔な響きがフィーチャーされた)ヴァニラ・ファッジ版に僕はシンパシーを感じる。

・Vanilla Fudge (1967)

Personnel
Carmine Appice (drums, vocals)
Tim Bogert (bass, vocals)
Vince Martell (guitar, vocals)
Mark Stein (lead vocals, keyboards)

これをアート・ロックというのか僕にはわからないが、ちょうど僕の幼年期である1960年代後半の、どの曲にもある何とも不思議な音調に僕はいつも心を奪われる。

ヴァニラ・ファッジには、初期のディープ・パープルやイエスが影響を受けたというが、革新という意味でこれほどの芸術性と熱度の高いグループはなかなかないだろう。

かねてよりヴァニラ・ファッジが誇る名リズム・コンビに惚れ込んでいたジェフ・ベックが、ティム・ボガートとカーマイン・アピスの引き抜きにかかったのである。そして、急病に倒れたヴィンス・マーテルの代役として、8月に当のジェフ・ベックがわずか300ドルばかりの報酬でヴァニラ・ファッジへと友情参加、すでに彼らが請け負っていたコカ・コーラのMソング「Things Go Better With Coke」のレコーディングをサポートするに及んで、新たなジェフ・ベック・グループ結成の気運は急速に高まる。こうして(1969年)9月に入って、とうとうヴァニラ・ファッジは実質的な自然消滅を迎えることになった。
(伊藤秀世)
~20P2-2096ライナーノーツ

破壊と創造こそがロック・ミュージックの墓碑銘だとするなら、グループのあり方そのものがまさにロック業界であり、ロックだったのである。

7分20秒に及ぶ「キープ・ミー・ハンギング・オン」のモダンさもさることながら、極めつけは8分半近い、ほとんど別の曲と化す(アンニュイなヴォーカルを持つ)コンテンポラリー(?)「エリナー・リグビー」だ。ジャンルを超えた音楽性、即興という刺激、原曲のセンスをギリギリまで損なわず、自分たちの作品へと昇華する天才とでも表現すれば良いのかどうか。静謐さと暴力性が入り混じるロックの表現の傑作だといえよう。

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