ダッラポッツァ ローテンベルガー マッテス指揮フィルハーモニア・フンガリカ オッフェンバック 喜歌劇「地獄のオルフェ」(ドイツ語歌唱版)(1977.9録音)

天才は引用、乃至はパロディが巧い。
古今、数多の芸術家がインスパイアされた「オルフェオ」の物語をパロディ化して、見事に喜歌劇に仕立てたジャック・オッフェンバックの天才。しかも、この喜歌劇には幾種ものバージョンがあり、一粒で二度も三度も美味しい。何より付された音楽の普遍性。

神聖なるギリシャ神話が、何とも滑稽な俗人の日常にリプリントされ、聴く者を大いに楽しませる妙。

原典では、オルフェオ(オルフェウス)が、「自分の歌で地獄の番人をなだめたり、どんなことがあっても亡き妻エウリディーチェ(エウリディケ)を振り返らない」という条件付きで地獄からエウリディーチェ(エウリディケ)を連れて帰ることを許されるものの、振り返ってくれないオルフェオ(オルフェウス)に不信を抱いたエウリディーチェ(エウリディケ)がそれ以上自分について来なかったことを嘆き、ついに振り返ってしまうことで妻が息絶えてしまうという悲劇のシーンが、何と軽妙に、そして笑いをもって再創造されていることか。

すなわち、「地獄のオルフェ」においては、すっかり夫婦仲が冷え切っているオルフェ(オルフェウス)とウーリディス(エウリディケ)にはそれぞれ不倫相手がいること(いわゆる「ダブル不倫」)、妻の不倫相手を始末しようと毒蛇を仕掛けるも結局妻が引っ掛かり、命を落としてしまったこと。これでやっと自由を謳歌できると内心喜んでいるオルフェ(オルフェウス)に対して世間の声は許さず、「妻を取り戻せ」という。オルフェ(オルフェウス)は仕方なく、地獄に向かうが、そこでも神々がいろんな企図、思念をもって彼を迎えるものだから大騒ぎ。
ついに神の長ユピテルが現世に辿り着くまで妻のことを振り返ってはいけないと条件を付けて送り出すが、妻に愛想をつかしているオルフェ(オルフェウス)は本当に振り向かない。(笑)
そこでユピテルは雷をオルフェ(オルフェウス)の背後に落とすことになり、吃驚したオルフェ(オルフェウス)はついつい振り返ってしまい、そこからハッピーエンドの大団円に向かう。

昔も今も俗世間で起きている情事には何も変化がない。
気高い神話が、実に低俗ながら、誰もが膝を打つだろう物語に塗り替えられてのドタバタ騒ぎは1858年10月21日の初演から人気を博したという。

いわゆる初演時の、オペラ・ブッファ版としての「地獄のオルフェ」(全2幕)。オリジナルには元々序曲はなかったが、1860年のドイツ語版によるウィーン初演のためカール・ビンダーによってアレンジされた序曲付の名録音。

・オッフェンバック:喜歌劇「地獄のオルフェ」(ドイツ語歌唱版)
ベンノ・クッシェ(ユピテル、バリトン)
グリット・ファン・ユーテン(ディアナ、ソプラノ)
ゲルト・W・ディーベリッツ(メルクル、バリトン)
カーリ・レヴァース(ヴェヌス、ソプラノ)
ブリギッテ・リントナー(クピード、ソプラノ)
フェリー・グルーバー(プルート/アリステウス、テノール)
テオ・リンゲン(ハンス・スティクス、朗読)
アドルフ・ダッラポッツァ(オルフェウス、テノール)
アンネリーゼ・ローテンベルガー(エウリディケ、ソプラノ)
ギゼラ・リッツ(世論、アルト)
ケルン歌劇場合唱団
ヴィリー・マッテス指揮フィルハーモニア・フンガリカ(1977.9.26-30録音)

本家本元(?)グルックからの引用あり、終始美しくも覚えやすい旋律に満ちており、この喜歌劇が人気を博した理由が手に取るようにわかる。何より第2幕第4場、ギャロップ、すなわちカンカンが登場する地獄の大宴会場でのシーンが音楽共々最高。

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