朝比奈奇跡のブラームス

とても過ごしやすい気候になり、いよいよ秋到来の予感。初秋の季節にはブラームスの音楽(特に青年期に書いた音楽)がとてもよく似合う。
そういえば、朝比奈隆が新日本フィルと最後のツィクルスを演ったのも確か今頃だったなぁ、と懐かしく思い出しながらCDを取り出す。

ブラームス:ピアノ協奏曲第1番ニ短調作品15
伊藤恵(ピアノ)
朝比奈隆指揮新日本フィルハーモニー交響楽団
(2000Live)

朝比奈は1990年以降東京でブラームス・ツィクルスを3度実現させている。そのツィクルスでの第1協奏曲のソロを3度とも任されたのが伊藤恵。僕は幸運なことにその全てを直接会場で聴いている。第1回目のときは、朝比奈のブラームスの実演を初めて聴けるという喜びと、まだ壮年期並みのエネルギーを残していた御大の創り出す音楽に身も心も砕かれたかのように感激した(この公演もフォンテックからリリースされている)。第2回目は確か1996年。このときは全4回のコンサートを在京オーケストラ4つが分担して受け持ち、第1協奏曲のときは東京都交響楽団。なぜかこのときの記憶はほとんどない。
そして、最晩年2000年~2001年にかけて行われた第3回目、つまり最後のツィクルス。その第1回目は第1協奏曲と第1交響曲をプログラムに2000 年9月にサントリーホールで幕を開けたのだが、最初の一音が鳴り出すや否や既に釘付けになってしまうほどの若々しいエネルギーに満たされた演奏だったことをCDを聴きながらあらためて思い出した。
この曲はブラームスがまだ20代の頃、本格的な管弦楽曲として初めて世に問うたある意味デビュー作に近い位置づけにあるものともいえる。特に僕が愛して止まない第2楽章は、恩師ロベルト・シューマンの妻であるクララをイメージして創作されており、「何か回顧的な感情」と「クララへの愛」に満たされた「祈り」の音楽であり、この演奏も涙が出るほど感動的である。
とにかく終演後の猛烈な拍手喝采を聴いてみてください。何十回と朝比奈の実演を聴いた中でも、このコンサートは1位か2位を争うものだと断言してもいいほど。とにかくこの演奏は大変に素晴らしい(御大は、とても1年後には亡くなってしまうとは思えないほど当時心身ともに充実した状態にあったようだ)。

ちなみに、後半の第1交響曲も大変な名演で、もともと重厚でどちらかというと「ユックリズム」だった朝比奈のテンポは俄然速くなっており(晩年の演奏はどの曲も概してテンポは速くなっていた)、とても齢92の老人の作り出す音楽とは思えない若々しさに溢れた演奏であった(こちらもフォンテックからCDが発売されている)。

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