
マクロの視点では冷戦時代を髣髴とさせる米露の戦い。しかし、物語の背景自体は無視してよろしい。むしろミクロの視点で、今僕たち個人に必要な「自己との闘い」の重要なポイントを教えてくれるところが見事。
地位や名誉を顧みず、あくまで自身の使命を正しく認識し、勇気と智慧で部下を導く(マーヴェリック)ミッチェル大佐の「今」の物語。彼の慈悲と勇気は世界を巻き込み、すべてに幸福をもたらす。僕はこの今を時めくエンターテインメントに、慈悲と勇気と智慧の三位一体こそが世界を救うのだとあらためて思った。
「考えるな、行動せよ」とのメッセージが心に響く。
人間の内なる闇と光が交錯する仮の世界の中で、真に目覚める者たちは慈眼と慧眼を駆使し、すべてに歓喜をもたらすのだ。何より最高のエンターテインメントであり、ハラハラドキドキ、興奮の連続が心に栄養を与えてくれる。
あるいは、いわゆる「過去心」の問題。ミッチェル大佐の脳裏について離れないグースの死と、その息子であるルースターとの確執と融解。物語に描かれる数多の人間模様は僕たちの日常で起こり得る煩悩の問題と切っても切れないものだ。やはり目覚めのためのキーワードは慈しみであり智慧だ。しかも、それは行動を伴ったものでなければならないこともこの映画から教えてもらえた。なお、本作はCGを一切使用していないのだという。その点でも驚異的。実にヒューマニスティックな、心温まる素晴らしい映画だと思う。
なお、「トップガン・マーヴェリック」は前作の監督であったトニー・スコットに捧げられている。