
ご主人の井上陽水さんもこのアルバムを聴いて、たぶん喜んでくださるに違いないと思います。
(武満徹)
一所にとどまらず流れよ、進めと武満はいう。
なるほど、確かに変化を怖れるものは退化する。
大自然は、大宇宙は進歩、発展、向上しつつ調和に向かう。
武満徹の歌は優しい。それに、本業の作曲のように、雲をつかむような、ふわふわとした、つかみどころのない音楽とはまるで違う。とてもわかりやすいのだ。
ひとつひとつフレーズを丁寧に歌う石川セリの歌唱も、いかにも昭和的で、どこか朴訥(?)なのが良い。歌唱方法についてもどこか井上陽水のそれに影響を受けている臭いがして、何だか嬉しい。
武満は書く。
きっと多くの方が、なぜクラシックの、しかもこむずかしい現代音楽を書いている作曲家がこんなアルバムをつくったりするのか、不思議に思われただろう。
「翼」といううたにも書いたように、私にとってこうした營為は、「自由」への査証を得るためのもので、精神を固く閉ざされたものにせず、いつも柔軟で開かれたものにしておきたいという希いに他ならない。
(武満徹)
古くは1952年、新しいものでも1985年の作曲だから文字通り「昭和歌謡」だ。
谷川俊太郎の詞が何ともツボ。
「恋のかくれんぼ」など、「通りゃんせ」の引用があり、そこに武満が作曲、しかもコシミハルがセンス満点のアレンジを施しているものだから堪らない。続く、阿部公房原作の映画「他人の顔」の主題歌であった「ワルツ」も絶品(冒頭のアコーディオンによる前奏の愁い、続く歌はベートーヴェンの「月光」を髣髴とさせる旋律で、それをセリがまたアンニュイに歌うのだ)。
革新的な音楽にはいつでもインスパイアされる。
それこそ武満徹自身が望んだことだ。そう、「自由」への査証を得るためにはいつも柔軟であり、臨機応変でなければならない。