
レッド・ツェッペリンの2枚目のアルバムは、本人たちが想像する以上に爆発的なセールスを叩き出した。スタジオでの短時間の仕事とはいえ、直接的な爆音に、初めて聴いたとき僕は卒倒した。年齢を重ねるにつれその凄さがわかる。
ぼくより上手いギタリストなんて、もう山ほどいると思う。どこに行ってもぼくよりいい音を出すやつがいる。問題はそこなんだ。近ごろは誰も彼もが上手い。セカンド・アルバムのギター・プレイに関しては、少し失望している曲もある。スタジオに入っていると、ライヴの観客が恋しくなるんだ。あの独特の関係がね。スタジオだとほんの数人が、窓からのぞきこんでいるだけだ。正直、すごく気が滅入る。世界で一番むずかしいのは、プラスティックのかけらに興奮を送りこむことだ。間違いなくぼくらはステージのほうが、レコードよりいいプレイができると思うね。
~クリス・セイルヴィッチ/奥田祐士訳「ジミー・ペイジの真実」(ハーパー・コリンズ)P212
意外にもジミー・ペイジは昔から謙虚で控え目な男だったらしい。
実際、レッド・ツェッペリンの成功も本人はまったく予想外だったというのだから。
とにかくずっと忙しくしているから、スタジオに入ってアルバムにじっくり磨きをかける時間がないんだ。もうほとんど冗談みたいな感じで—ロンドンでリズム・トラックを録り、ニューヨークでヴォーカルを入れ、ヴァンクーヴァーでハーモニカをオーヴァーダビングしてから、またニューヨークにもどってここA&Rでミキシングをするなんてことがざらにある。自分たちがここまでビッグになるとは、これっぽっちも思ってなかったからね。年に2回ぐらいアメリカに来て、ライヴができたら御の字だと思っていた。もうほとんど、ぼくらの手には負えなくなっているんだ。
~同上書P211
音楽というものが、芸術というものが、技術の巧拙によって成り立っているものでないということの証しだ。謙虚であれることの美しさ。そこには間違いなく天性のセンスというものが働いているのだということがわかる。
今となっては当時の彼らの多忙さが功を奏したのだと言えまいか。
スタジオでのほとんど推敲の余地のなかった荒削りの演奏は、それゆえにライヴとは別の、強烈な熱を発していた。そして、何十年も後に、新たなフォーマットを得て、幾度もリマスターされるという現象は、文字通りペイジの手を一旦離れ、また還ってきたことの証左だ。
2014年にリマスターされたセットには、”The Companion Disc”と称するボーナス・ディスクが付されている。ラフとは言えないほとんど完成形に近い、しかしプラントのヴォーカルなどは仮歌のようなバージョンが収録されており、これがまた貴重。
Personnel
John Bonham (drums, backing vocals)
John Paul Jones (bass guitar, organ, backing vocals)
Jimmy Page (guitars, theremin, backing vocals)
Robert Plant (lead vocals, harmonica)
あらためてツェッペリンの奇蹟は、あの4人が揃った奇蹟だったことを痛感する。中でもジョン・ポール・ジョーンズの存在。
メンバーの中で、一番真面目なのが彼だった。一番もの静かだったのも。ほら、よく言うじゃないか、『賢い者は沈黙を守り、愚か者は口を開く』って。自分のまわりがどれだけカオス状態に陥っていようと、ベーシストとしての彼は間違いなく世界的レヴェルの達人だったし、とにかくいい仕事をすることしか考えてなかった。
彼はレッド・ツェッペリンのブライアン・ジョーンズ的存在で、いつも新奇な楽器を取り入れたり、足でキーボードを弾いたりしていた。音楽の才能はハンパじゃない。おかげでほかの4人組バンドに比べると、彼らには大きなアドヴァンテージがあった。
~同上書P219
第三者的冷静さと優れた才能あってこそ。
一方、ジョン・ボーナムの破天荒さとやはり何物にも代え難い天才的技量。
払いはすごくよかったな。ピーター・グラントはオレに、ロバート・プラントやジョン・ボーナムと同額のギャラを払ってくれた。週に500ドルもらっていたんだ。あのふたりも給料性だったけど、ボンゾは酒とクスリのやりすぎでクビにされそうになっていた。何度か、スレスレまで行ったこともある。ミーティングではたしか、「あいつは断固お払い箱にするべきだ」なんて話も出ていたはずだ。でもジミーが「駄目だ」と言い張ってね。絶対に駄目だって。ボンゾが”ケダモノ“呼ばわりされるのには、それなりの理由があったんだけど。
(ジョー・ライト)
~同上書P206-207
ジョー・ライトの証言が興味深い。
ボンゾが亡くなったとき、熟慮の末、バンドは解散を選択したが、やはり彼の代わりをするドラマーはいなかったとみえる。クビを拒否したジミー・ペイジの慧眼、こだわりの為せる業だ。
ちなみに、おそらく初収録となる”La La”は、イントロトアウトロだけのミックスだけれど、当時のツェッペリンの、ヘヴィーなメタル・サウンドの内に繊細な歌謡性が垣間見られる佳曲で、全曲を収録してもらいたかった(やはりジョンジーのサウンド・クリエイト力が群を抜いているように思われる)。