
若きベートーヴェンが、ウィーン美術家協会から委嘱された舞踏会用の音楽作品。
1795年の12のメヌエットは、すべてを同じ構成で書きつつ楽器編成を1曲ごとに変え、調性についても同じ調性が続かないように考慮されている。このあたりはすでに革新家ベートーヴェンの本懐。
音楽そのものは、ハイドンやモーツァルトに倣ったもので、文字通り舞踏会用の音楽であり、決して高尚なものとは言い難い。しかし、ベートーヴェンが筆を執った場合、そういう機会音楽であってもお座なりにはならない、彼らしい音楽が創造されている。見事だ。
あるいは、ワルトシュタイン伯爵作として初演された、1791年のバレエ音楽「騎士バレエ」の柔和で優雅な響き(優しきベートーヴェンの心の内)。
特筆すべきは、補筆完成版ではあるもののやはりベートーヴェン13歳の時の作曲であるピアノ協奏曲(ピアノ独奏部のみ)。第1楽章アレグロ・モデラートから後の協奏曲第1番ハ長調を髣髴とさせる快活さと、いかにもベートーヴェンらしい堅牢さに充ち、楽想の明朗さに本来ベートーヴェンが闘争を志向する人間でなく、むしろ平和、調和を希求する人間なんだということがわかる。第2楽章ラルゲットは喜びに溢れ、まるでモーツァルトのように1跳ねるが、ときに愁いを帯びた音調を醸す点が見事(悩める少年ベートーヴェンの悲しみよ、こんにちは)。そして終楽章ロンド,アレグレットの、モーツァルトに負けず劣らずの弾ける美しさ。
わがヴェーゲラーよ、愛する最も善良なる者よ、おお、もう一度君のBの腕に全身を投げかけ、かつて君が見出した善良な性質を信じてくれ。君がその上に築き上げんとする聖なる友情の新しい殿堂は、確固として永遠に不朽であり、如何なる出来事も、如何なる嵐もその基礎を揺り動かし得ないことを僕は保証する。
(1794-96、フランツ・ゲルハルト・ヴェーゲラー宛)
~小松雄一郎編訳「新編ベートーヴェンの手紙(上)」(岩波文庫)P47
ヴェーゲラーの手によって発表されたこの手紙の事情については知られていない。
しかし、親友ヴェーゲラーにこれほどまでに頭を下げ、謝罪するベートーヴェンの姿を想像するだけで、いかに彼が謙虚で、実際は感謝の念に溢れた人であったことが理解できよう。ただ、おそらく思いとは裏腹にその言動は他人を傷つけたり、怒らせたりしたのかもしれない。それもまたベートーヴェンの真実。
知られざるベートーヴェンを掘り下げるのは何と興味深いことか!