トスカニーニ指揮BBC響 ベートーヴェン 交響曲第4番(1939.6.1Live)ほか

人間の魂の中の潜在意識と呼ばれるあの暗い広汎な領域は以前からクロコフスキーの研究領域であった。この潜在意識という領域は、あるいは超意識界というのが正しいかもしれない。なぜなら、この世界からときには個人の意識的知性の及ぶところをはるかに超えるような洞見が閃きいでて、個人の魂のもっとも深い暗い領域と全知全能の宇宙の魂との間には、何かあるつながり、関係があるのではないかと考えさせるからである。潜在意識の領域は、本来の字義どおりに「潜在的(okkult)」であるが、もっと狭い意味で「神秘的(okkult)」でもあることはすぐにわかる。つまり、この潜在意識の領域は、私たちが仮に神秘的と呼んでいる現象を生む源泉のひとつなのである。
トーマス・マン/高橋義孝訳「魔の山」(下巻)(新潮文庫)P656

湧き上がる熱狂。
1930年代のアルトゥーロ・トスカニーニの演奏に通底するものは、激する熱情を露わに、しかもインテンポどころか横揺れの激しいただならぬ感興を伝える峻厳さだろう。特に、1935年以降幾度も客演したBBC交響楽団との実況録音は、そのどれもが30年代とは思えぬ録音の鮮明さに支えられ、後の、あまりにドライで色香を欠くNBC交響楽団との演奏を圧倒的に凌駕する。

・ベートーヴェン:交響曲第4番変ロ長調作品60(1939.6.1Live)
・ベートーヴェン:レオノーレ序曲第1番作品138(1939.6.1Live)
・モーツァルト:歌劇「魔笛」K.620序曲(1938.6.2Live)
・ロッシーニ:歌劇「絹のはしご」序曲(1938.6.13Live)
・ウェーバー:舞踏への勧誘作品65(ベルリオーズ編)(1938.6.14Live)
・ベートーヴェン:交響曲第6番ヘ長調作品68「田園」(1937.10.20&21Live)
・ベートーヴェン:交響曲第1番ハ長調作品21(1937.10.25Live)
・ブラームス:悲劇的序曲作品81(1937.10.25Live)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮BBC交響楽団

いずれもロンドンはクイーンズ・ホールでのライヴ録音。
筋肉質で、強靭な意志に支えられた怒れるベートーヴェンの本領発揮。颯爽たるテンポでありながら決して即物的には聴こえない、むしろ浪漫すら感じさせる第4番変ロ長調が素晴らしい。同様に、レオノーレ序曲第1番の、レオノーレとフロレスタンの喜びに溢れる解放感の顕現は、他の指揮者にはないイタリア的歌謡の賜物か。あるいは、モーツァルトの「魔笛」序曲の哲学的音調を超える人間的情感に満ちる演奏に、トスカニーニの柔和な側面を思う。

中庸な、一聴、ぶっきら棒にも思える第6番「田園」第1楽章田園に到着の際、人間にわき起こる心地よい、陽気な気分」には、真の心の安寧が刻印されているのではないか。何よりトスカニーニが楽しんでいるのがわかる。続く第2楽章「小川沿いの情景」における見事な情景、心情描写。白眉は第3楽章「田園の人々の楽しい集い」以降だろう。特に第4楽章「雷鳴、嵐」から終楽章「牧人の歌—嵐の後の、快い、神への感謝と結びついた感情」にかけての、どちらかというと熱狂を抑制した、静かな表現に僕はトスカニーニの長けた悟性を僕は感じる。
パッション豊かでありながら踏み外しのない、寛大なるブラームスの「悲劇的序曲」の潤いにも感動。

人気ブログランキング


コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む