マーシャル メリマン コンリー ハインズ ロバート・ショウ合唱団 トスカニーニ指揮NBC響 ベートーヴェン ミサ・ソレムニス(1953.3&4録音)

52/53年シーズンを終えて、86歳のトスカニーニは、自らの進退を考えざるを得なくなっていた。娘のワリーには1953年5月11日付けの手紙で「私は、自分に残されたわずかな時間に休息を取りたいし、平和な死を迎えたい」と書いている。そして、視力の低下、足腰の衰え、記憶力の衰退を娘に嘆いている。しかしその一方で「私は常に勉強を続けてきたし、それなしでやっていけると思ったことはない。(中略)私は自分に満足したことがないし、今でも満足していない」と若き日からの信条を述べている。
山田治生著「トスカニーニ―大指揮者の生涯とその時代」(アルファベータ)P269

少しばかり衝撃(否、大いなる衝撃)。
ベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」に開眼するのに僕は随分時間がかかった。
10年ほど前にデヴィッド・ジンマン指揮チューリヒ・トーンハレの名演奏に出逢い、ついにそのベールがひもとかれたわけだが、ここに一層素晴らしい、歴史的名演奏があったことに今さらながら気づいた。颯爽としつつも地に足の着いた堂々たるテンポの中に存在する熱狂の渦に、キリエ冒頭から巻き込まれる様はあまりに凄まじく、しかも最後のアニュス・デイに至るまで一切の弛緩なく、恐るべき集中力に心地良さと(大袈裟だけれど)驚愕を感じざるを得ない。

アルトゥーロ・トスカニーニが最晩年に手兵NBC響とともに成し遂げた偉大なる成果の一つだろう。そこには強い信仰心が宿り、音楽への愛情に満ち、もちろんベートーヴェンへの尊崇の念も刻印された、トスカニーニならではの歌があった。

・ベートーヴェン:ミサ・ソレムニスニ長調作品123
ロイス・マーシャル(ソプラノ)
ナン・メリマン(メゾソプラノ)
ユージン・コンリー(テノール)
ジェローム・ハインズ(バス)
ロバート・ショウ合唱団(合唱指揮:ロバート・ショウ)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団(1953.3.30, 31 &4.2録音)

カーネギーホールでの録音。こういう大曲は、得てして徐々に興が乗り、掉尾に至ってついに開襟されるのが常のように思うが、トスカニーニは違う。劈頭からまったく別物の、内側に嵐が起こっているような、尋常ならざるエネルギーに溢れるのだから聴く者はついのけ反ってしまう。もちろん作品に対する理解はある程度必要だ。ただただ、ベートーヴェン畢生の大作が、これほどまでに軽快に(?)、しかも愛着を持って奏でられる様子に感激しかない。死を意識するどころか、もはや生と希望しか感じられないトスカニーニ最晩年のミサ・ソレムニス。
それにしてもクレド以降、特にサンクトゥスにおける第2部ベネディクトゥスの美しさに声も出ない。最後のアニュス・デイにおける祈りの境地は人間臭くもあり、また同時に崇高な聖なる心を表現する。「ミサ・ソレムニス」を愛好する諸氏必聴の録音!

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