ワルター指揮コロンビア響 ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」(1958.1録音)

とくと考えて明らかになったのですが、名づけ親の私がバルタザルにしてやれるのは、音楽の贈り物でなければなりません。もちろん何年かのちにならないと、この子には価値が分からぬかもしれませんが、彼に少し先立ちご両親と祖父母君が—代理として—贈り物とそのいわれをお受け取り下さるでしょう。—私が演奏したもので、ベートーヴェンの交響曲9曲のレコード全集一組を、お手もとに届けさせましたので、ここに同封の献辞をはさみ込みいただくようお願いいたします。将来レコードが技術的に進歩すれば、今日のレコードの品質が古くさく思えるのではないかと懸念しておられますが、これには賛成できかねます。この国の優秀な専門家たちが確信するところでは、長期にわたって新たに変わる見込みはないそうで、今日の器械と今日のレコードの業績を、私は高く評価せざるをえませんし、感銘のいちじるしい遺産を創り出したと、確信さえしている者であります。それにまた私は、公の演奏を決定的に断念しましたのに、この仕事をばずっと続けられるのです。
(1961年12月6日付、ジェローム・ベセニヒ宛)
ロッテ・ワルター・リント編/土田修代訳「ブルーノ・ワルターの手紙」(白水社)P370-371

現実にはレコードの技術はこの60年で大いに進歩し、ハード面でもレコード、コンパクトディスク、サブスクと急激な変遷を遂げているが、ブルーノ・ワルターの、残された最晩年の芸術については、プロデューサーのジョン・マックルーアの力量(センス)も手伝ってか、色褪せないどころか、老巨匠の静かでありながら熱狂的な境地を見事に刻印する名録音として今も世界に君臨している。

僕は随分長い間誤解していた。
ブルーノ・ワルター最晩年のコロンビア交響楽団とのセッション録音はいずれもが他の何ものにも代え難い名演奏であること、就中、ベートーヴェンの交響曲全集に関して、驚くほど生命力があり、同時に繊細、かつオーケストラの技術的にも決して見劣りすることのない優れたものであることを再発見する。

交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」。
トスカニーニ追悼演奏会である、シンフォニー・オブ・ジ・エアーとの壮絶な演奏に比肩する、ワルター自身が太鼓判を押した最良のレコードが、見事な音楽がここにある。

・ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」
ブルーノ・ワルター指揮コロンビア交響楽団(1958.1.20, 23 &25録音)

第1楽章アレグロ・コン・ブリオから、音楽は堂々たる体躯を形成し、流れは途切れず、ベートーヴェンの精神を見事に音化する。ホルンなど、多少の疵、甘さは看過するにせよ、続く第2楽章葬送行進曲、そして、第3楽章スケルツォと進むにつけ、これが82歳の老人の紡ぎ出す音楽なのかと思ってしまうほど喜びに溢れ、躍動する。結論たる終楽章アレグロ・モルトの拡がりと解放よ。

死のわずか3ヶ月ほど前に認められたワルターの手紙にある自身の演奏に対する確信は真実であり、また普遍的なものだ。

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