「愛」の音楽

代官山ヒルサイドプラザホールにて開催された「ロンドンより愛の挨拶:小林美緒&加納裕生野デュオ・コンサート」を聴いてきた。若干23、4歳という年齢ながら堂に入った演奏は見事なものだった。お二方ともロンドン在住のようだが、年に何度か凱旋帰国しソロ・リサイタルや室内楽演奏を披露していると聞く。

今日のプログラムはエルガーの生誕150年を記念して編まれたもので、メインに彼のヴァイオリン・ソナタを置き、前菜としてモーツァルトのイ長調ソナタK.526、ラヴェルのソナタ、そしてバルトークのラプソディ第1番というもの。か弱き二人の女性が奏でるとは思えないとても重みのある熱い音楽を聴かせていただけたことにまずは感謝しよう。僕は特に前半2曲目のラヴェルが気に入った。二人の呼吸がぴったりで楽器が完全に溶け合い、音の魔術師ラヴェルの醍醐味を完璧に再現した渾然一体とした名演奏で、時に演奏者の手を完全に離れて作品そのものが会場に息づいていた瞬間があった。テクニックも申し分ない。

ところで、メインのエルガーのヴァイオリン・ソナタ。彼のヴァイオリン曲ではアンコール・ピースとしてよく演奏される「愛の挨拶」(本日のアンコールもご他聞にもれずこの曲が演奏された)が飛び切り有名だが、何だかそれほど面白い曲だとは思えなかった。技術は完璧、とても良い演奏だったのだが、多分この曲が書かれた時の作曲家の境地とそれを演奏する若者2人の「今の意識」にズレがあるように感じるのだ。1曲目のモーツァルトもそうで(こちらもとても素晴らしい演奏だったことは間違いないのだが)、自然や神と通じるような「高み」で書かれた音楽を演奏する場合、相応の人生経験とそれに伴う充分な見識があって初めて超弩急のものが生まれるのだろうと思う。そのようにあれこれ感じながら、目を閉じて聴いている最中、頭の中で閃いたのはなぜかラフマニノフ。方や19世紀末から20世紀初頭にかけての英国音楽界の重鎮。そして一方は同時代のロシア音楽界を代表する人気ピアニスト作曲家。エルガーとラフマニノフに接点があったとは聞いたことがないので多分僕の「気のせい」かもしれないのだが、とにかくラフマニノフのピアノが脳内を駆け巡ったのだ。

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番ニ短調作品30
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
リッカルド・シャイー指揮ベルリン放送交響楽団

随分長い間聴いていなかった名曲。若き日のアルゲリッチが例によってじゃじゃ馬の如く暴れるライブ・レコーディングである。しかも、第2楽章アダージョでは彼女のピアノが「泣き」を見せてくれる。1909年にニューヨークで初演されたこの曲は有名な第2協奏曲以上に大規模でかつ円熟した技法で書かれている。とにかくピアニスト泣かせの難曲らしいが、恋人同士で愛を語らうときのBGMにもってこいの「ラブラブ」ミュージックである。

ちょうど今日はクリスマス・イブだから、「ジングル・ベル」や「Happy Xmas」、山下達郎もいいが、ロシア・ロマノフ王朝の生き残り音楽家の浪漫的な曲を聴きながら1年を振り返り、二人の思い出に浸ってみるのもいいかもしれない。

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