好きこそものの上手なれ

日本シリーズで中日ドラゴンズが53年ぶりの優勝を果たした。MVPに輝いた中村紀洋は涙ながらに「一度リストラされたが、自分を信じてやってきた。そういう人たちの励みになれば。」と語っている。
彼の場合、「自分を信じること」の前に、奥さんから「野球小僧」と称されるほどそもそも「野球」という好きなことに向かい、そしてその好きなことを継続してきたことの結果なのだから、MVPも当然いえば当然のことである。「信じられる何か」をもっているということは人間にとって最も重要なことで、要は「好きこそものの上手なれ」ということなのだ。
この言葉は、僕がキャリア・カウンセラーとして常々学生たちに語ってきたことと相通じることで、人生の転機にある今の僕自身についてあらためて「自分の好きなことは何なのか?」を振り返らせてくれ、自らを省みる大きなきっかけになったと思う。

プロ野球選手やプロ芸術家というのは、その個人の才能が開花し、抜群のセンスと同時に「運を引き寄せる」力を持ち、そして、「山あり谷あり」の中で、それでも自分が好きなことを一生かけて追求し、最終的に万人に認められるという生き方をする人が多い。

ピアノの世界ではホロヴィッツなどがその典型的な例だと思うが、20世紀の中頃以降そのホロヴィッツと人気を二分したアルトゥール・ルービンシュタインを今日は聴こう。
デビュー当時から圧倒的なテクニックで支持された彼は、晩年になればなるほど(テクニックの衰えも見せず)老練な解釈とともに光り輝く超名演奏を生み出した。若い頃はショパン弾きとしてならし、豪快で楽観的な演奏を披露した彼も、晩年はより一層の渋みと深さを獲得し、他の誰もが超えられない名演奏のレコードをいくつか残した。
そんな彼の芸術の中でも、最高傑作はベートーヴェンの「皇帝」だろう。レコーディング時、何と88歳(!)という、恐ろしいまでに「深化」された音楽。

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番変ホ長調作品73「皇帝」
アルトゥール・ルービンシュタイン(ピアノ)
ダニエル・バレンボイム指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

第1楽章は最初のピアノによるカデンツァから波状攻撃だ。ルービンシュタインならではの遅いテンポによる「勇気を与えてくれる」音楽。そして、第2楽章、アダージョ・ウン・ポコ・モッソの穏かできれいで愛らしい旋律は、これだけで「癒し」の音楽だ。いまや巨匠の名に恥じない若きバレンボイムの伴奏も見事なもの。豪快なおじいちゃんの演奏に孫が尊敬の念をこめて伴奏をつけるという表現も悪くないかもしれない。先日書いたロストロ&ゼルキンに匹敵する一体感をもつ圧倒的演奏である。

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