単純な原点へ

本日は、ドイツのワーグナーと並びイタリアが生んだ大オペラ作曲家ジュゼッペ・ヴェルディの誕生日らしい。彼が生涯作曲したオペラの数は26。そのうち音盤や劇場での生体験を通じて僕が知っているのはわずかに10作品(①アッティラ、②マクベス、③ リゴレット、④イル・トロヴァトーレ、⑤椿姫、⑥仮面舞踏会、⑦運命の力、⑧アイーダ、⑨オテロ、⑩ファルスタッフ)。しかも、これまで没頭して聴いたという時期が一度もないゆえ残念ながらあれこれと論評を述べたり感想を書いたりする資格は全くない。それなりに楽曲は聴いているので知ってはいるのだが、残念ながら「心の琴線」に触れる音楽ではないのである(決して音楽の質が良くないというのではなく、僕自身の趣味嗜好と単に合わないだけなのだが)。
そんなヴェルディの創作した楽曲の中でも唯一「レクイエム(死者のためのミサ曲)」だけは好んで何度も聴き、幾度も感動した経験がある。

ヴェルディ:レクイエム(死者のためのレクイエム)
サー・ゲオルグ・ショルティ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
ジョーン・サザーランド(ソプラノ)
マリリン・ホーン(メゾ・ソプラノ)
ルチアーノ・パヴァロッティ(テノール)
マルッティ・タルヴェラ(バス)

ヴェルディが尊敬する詩人マンゾーニの追悼のために書かれたこの曲は彼の「信仰告白」である。第2曲「怒りの日」は夙に有名。しかし、僕は第1曲「レクイエム(主よ、永遠の安息を彼らに与え―入祭文)とキリエ(主よ、憐れみたまえ)」〈四重唱、合唱〉が特にお気に入り。静謐で敬虔な雰囲気の中に曲が始まり、つい先日亡くなったパヴァロッティの独唱(この音盤は1967年録音なので何とパヴァロッティ32歳時の美声が聴ける)で「主よ、憐れみたまえ」が歌いだされる。

ところで、この曲に初めて触れたのは哲学的形而上的映画を8本だけ残したロシアの天才映画監督アンドレイ・タルコフスキーの第6作「ノスタルジア」において。映画が始まるや否やタルコフスキー独特の澄んだ映像美をバックにこの曲が流れた瞬間雷に打たれたかのような錯覚に陥るほど痺れた。
この映画の最後は壮絶だ。
狂信者と噂されるドメニコがベートーヴェンの第9をBGMに「自然を観察すれば人生は単純だと分かる。原点へ戻ろうではないか。単純な原点へ。道を間違えた場所まで戻るのだ。水を汚すことなく、根源的な生活へ戻ろう」と演説した後焼身自殺する・・・。

ドメニコは決して狂信者ではない。生まれるのが早すぎただけなのだ。

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