三菱地所presents紀尾井 明日への扉Vol.44 瀬千恵美 共演 小澤佳永

絶妙なプログラミングのように見えた。
2時間と少し、残念ながらトーンがずっと変わりなく(同じ味をずっと食べさせられているような印象)、最後のウェーバーになると少々「飽き」が来た。ただし、初リサイタルだという演奏の質はとても優秀だったと思う。

イェルク・ヴィトマンの作品や演奏を聴いたのはもう7年もまえのことだ。
クラリネット界の旗手たるヴィトマンの作品は、「風の時代」の象徴たる尺八を思わせる音色であり、音楽だった。まるでソニー・ロリンズのソロ・アルバムかと思うようなシーンも頻出したが、作品自体がストラヴィンスキーやブーレーズの影響下にあると知り、膝を打った。「春の祭典」からの引用、ジャズやロックからの影響など、音調は実に多彩。音楽は呼吸だと思った。素晴らしかった。

サントリーホール国際作曲委嘱シリーズNo.41〈イェルク・ヴィトマン〉《管弦楽》 サントリーホール国際作曲委嘱シリーズNo.41〈イェルク・ヴィトマン〉《室内楽》

そして、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタの編曲は、まるで元々クラリネットのための作品だったのではないかと思えるくらい板についていた。確かに、18世紀のあの時代、クラリネットは最も革新的な新参者だった(個人的には第2楽章アンダンテ・ソステヌート・エ・カンタービレのふくよかで情緒的な音楽に惹かれた)。
あるいは、シューマンの、クララに捧げた「3つのロマンス」には、フロレスタンとオイゼビウスが登場し、晩年の、いかにも彼らしい、危うい不安定さ(メランコリー)が垣間見え、それがまた浪漫を呼び、美しかった。

20分の休憩後の後半は、いよいよ彼女も興に乗り、特にアルバン・ベルクは渾身の出来だった(個人的に今夜の白眉!)。極めて短い小節からなる、4つの楽曲が変幻自在の音調で、聴く者の心魂にまで届くであろう強烈な音響を醸していた。いかにもベルクらしい、知性溢れる哲学的で深遠な音楽は、一度腑に落ちればずっと虜になるであろう代物。やはり実演は最高だ!

リサイタルの掉尾を飾るウェーバーはほとんど記憶に残っていない(個人的にはベルクで締めてもらった方が良かったかも)。どちらかというとドイツ的森厳さを売りにするウェーバーらしくない、妙に軽快な音楽に少々僕は辟易したのだ。
しかし、逆に明朗な、いかにもメンデルスゾーンというアンコールは素敵だった。

予定のプログラムが終わったところで、瀬は来場者に感謝のコメントを残したが、これがまたその容姿とつり合わないくらいあどけなく、意外に思えた。それに比べると彼女の演奏はとても大人びたもので、清廉な音色に包まれていたが、それがまた単調さを助長する原因だったのかもと最後に思った。
(アルバン・ベルクが本日の収穫!)

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