Eros Thanatos

第8回「早わかり古典音楽講座」が明後日に迫った。お陰さまで毎回たくさんの方に参加していただけるので、事前準備にとても気合が入る。しかし、モーツァルトに関しては研究すればするほど奥深く、35年という短い人生をあっという間に駆け抜けていった彼の生き様や音楽そのものに興味が尽きることはない。とても一度の講座で語りきることは不可能なので、いずれまた再登場させるつもりである。

ところで、10月は6日(土)の特別講座「早わかりハルサイ講座」の他、28日(日)にワーグナーをとりあげる予定なのだが、果たしてどのように料理するかが問題だ。あくまで初心者が対象なので、いわゆる楽劇からの抜粋や「管弦楽名曲集」的なノリでアプローチするのが妥当な線なのだが、いきなり畢生の大作「ニーベルンクの指環」の世界にどっぷりと浸っていただくというのも名案かもしれないと考えている。

僕の場合、「指環」全曲盤を初めて手に入れたのは、専らクナッパーツブッシュやフルトヴェングラーの指揮する管弦楽曲に慣れ親しんだ後だいぶ経ってから(確か27、8歳の頃か・・・)で、定番のショルティ&ウィーン・フィル盤だった。クラシック音楽聴き始めの人間にとっては何時間もかかる楽劇の世界にいきなり入るのは難しい。当然「ワーグナー=とっつきにくい」という先入観を持っていたのだが、そういう考えを吹き飛ばしてくれ、のめり込むきっかけとなったのが、フルトヴェングラーの伴奏でフラグスタートが歌う「ブリュンヒルでの自己犠牲」が片面に入ったLP盤(WF-60032)だった(もともとはA面のマーラー「さすらう若人の歌」(フィッシャー=ディースカウ)目当てに購入したものなのだが・・・)。

ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」~ブリュンヒルデの自己犠牲(1952)
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮フィルハーモニア管弦楽団
キルステン・フラグスタート(ソプラノ)

1952年のモノラル録音ながら比類の無い完璧な演奏。精神的、かつ霊的に非常に高い境地に達している超名盤だ。4部作「ニーベルンクの指環」の最終夜「神々の黄昏」のクライマックスであり、全14時間を越える大作を締めくくるに相応しく音の一つ一つが人間業を超えた「崇高さ」をもっている。
この長大な楽劇のラストシーンは「ブリュンヒルデが、神々の統治の後に純粋な愛があらわれる世界を予言し、指環をもって火の中に飛び込んで死んでいく」というもので、「死をかけた愛」による「救済」というワーグナーが生涯かけて追ったテーマがここでも流れている。

最後のクライマックス、ブリュンヒルデが身を投じた後のオーケストラのみによる後奏は、「ヴァルハラ城の動機」、「ラインの乙女たちの動機」、そして「愛の救済の動機」の3つが交錯し、とても言葉では表現できない感動を与えてくれる。

※つい先日から、ミャンマーで僧侶や市民による大規模な反政府デモが続き、とうとう軍事政権当局が武力行使に出た。力や権力で物事を解決しようとする時代はもう終わらすべきであろう。

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