驚愕の瞬間

新ウィーン学派の音楽は概して夜更けの音楽である。昨深夜ついつい頭が妙に冴え心地よく眠りにつけないことをいいことに極々小音量でかの音楽をかけ読書をした。夜中とはいえ住居のある場所は新宿ということもあり、道路を往来する車の音や目の前の消防署から勢い出て行く消防サイレンの音が時折けたたましく鳴り響く。田舎と違い完全なる静寂は望めない。
そんな中で聴く音楽はひょっとすると「正しい聴き方」でないのかもしれない。がしかし、20世紀前半、音楽界を席巻した「無調」の世界に身を浸すと否が応でも「脳みそ」を一点に集中せざるを得ず、外の喧騒が全く耳に入らなくなるのはとても不思議なものである。

ところで、「調性」の世界は人間が心地よく音楽を楽しめるように様々な規則の中に閉じ込めた音楽であり、一方「無調」はその「枠」をとっぱらった自由な音楽であるという。なるほど見方を変えると、音楽も人間の都合のいいように決められた「ルール」の中に窮屈に閉じ込められてきたということか・・・。あまり意識していなかったが、ジャズの世界では「無調」の楽曲を「フリー・ジャズ」と呼ぶのはその字の如くということだろう。

人間の生み出したその「枠」をブレイクスルーし、極限にまで音の数を切り詰めたアントン・ヴェーベルンの世界に浸る(彼の音楽はもはや20世紀の古典となっている)。

ヴェーベルン:管弦楽のための5つの小品 作品10
ピエール・ブーレーズ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

極度に凝縮された緊張感を持つブーレーズの指揮はとてもかっこいい。月並みな表現だが、サスペンス映画の効果音を連続してつないだかのような人間の持つ「不安感」と「恐怖感」いっぱいの楽曲。剥き出しになった楽器の音が耳に突き刺さるたった5分ほどの「驚愕の瞬間」の音楽である。

一つ一つの楽曲の演奏時間がポピュラー音楽並みの短かさで、かつ寡作だった彼の作品はたった6枚ほどのCDにその全作品が収録可能である。しかし、1曲ごとのエネルギーとテンションは並大抵ではない。よって気軽に聞き流すことは難しい。

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