未来派音楽

今更なのだが、西洋音楽史をざっくりと再俯瞰しようと岡田暁生氏の「西洋音楽史~『クラシック』の黄昏」を出講の往復車中で読んでみた。バロックから近代音楽に至るいわゆる一般的に「クラシック音楽」の範疇に入るものについては真新しい発見はなかったが、音楽の発祥から中世、ルネッサンス期に及ぶ「古楽」の分野については割かれているページ数は僅かながら楽しく読ませていただいた。古い音楽についてはまだまだ勉強不足で、フランドル派とか14世紀、あるいは15世紀といわれてもいまひとつピンとこない。しかしながら、件の書籍を読みながら、そもそも社会的背景あっての音楽であり、なぜ「そういった音楽」が生まれたのかがよく理解でき、今一度音盤を手に入れ、当時の作品を具に研究してみたくなった。突然変異的に生まれたものはひとつもなく、歴史の流れと需要と、あらゆる要素が絡んで生み出されたものなんだということがあらためてわかる。

福島の原発問題。史上最悪のレベル7にまで引き上げられた。今後どうなるのか、まさに心配、憂鬱の種になろうが、とはいえ政府や東電の手際の悪さなどを批判ばかりしていても埒は明かない。つい1ヶ月ちょっと前までは、我々ひとりひとりがこの文明の恩恵に預かっていたわけだし、原子力発電所が生産する電気を何の疑問もなく使い放題使っていたわけだし。例えば「撤廃」の一言を言うのは容易いが、それに付随する様々な問題(経済的事情、代替エネルギー問題)をあわせて考えないことには前に進んでいかないだろう。

ところで、クラシック音楽の世界では、ある時期までドイツはまったくの後進国だった。それが19世紀になると大音楽家の登場で一気にその世界の中心になった。そして、1870年の普仏戦争。宰相ビスマルク率いるプロシャに惨敗したフランスは、ドイツに負けじと音楽面においても急進的なものを追究するようになった。19世紀末におけるフランス音楽の躍進は見事の一言に尽きる。中でもドビュッシーは突然変異的な天才である(とようやく最近わかるようになった)。

ドビュッシー:
・前奏曲集第1巻(1909~10)
・スケッチブックから(1903)
・コンクールの小品(1904)
・ハイドンをたたえて(1909)
・かわいい黒人の子ども(1909)
・子供の領分(1906~08)
ミシェル・ベロフ(ピアノ)

確信に満ちたベロフのピアノは刺激的。決して揺るがず、ドビュッシーの意味をストレートに伝えてくれる。これらの音盤が僕に与えてくれた影響は大きい。堅牢としたドイツ音楽のぶれない軸も大好きだが、のりしろの多い、いかにも都会的センス満点の洒落たドビュッシーは本当に明るい。20世紀後半のポピュラー音楽に通じる「未来」が彼の作品の中にはある。

※本日は妻の誕生日。僕の時と同様、2人きりのバースデー。


3 COMMENTS

雅之

おはようございます。

>原子力発電所が生産する電気を何の疑問もなく使い放題使っていたわけだし。
私は過去、岡本さんのブログのコメント欄で、何回も原子力発電における高レベル核廃棄物(使用済み燃料)の危険性について書きましたし、春日井市勝川での岡本さんのセミナー休憩時などでも、そのことについて岡本さんや他のメンバーの方と雑談した記憶があります。

>例えば「撤廃」の一言を言うのは容易いが、それに付随する様々な問題(経済的事情、代替エネルギー問題)をあわせて考えないことには前に進んでいかないだろう。
では、私の具体的な持論を・・・。

高レベル核廃棄物(使用済み燃料)は、核分裂生成物(FP)と超ウラン核種(TRU/MA)が主なもので、前者は強い放射線を放つし、後者は長期間放射線を放出します。
これらの廃棄物は、半減期の長い長寿命核種(特に、マイナーアクチニド (MA) のネプツニウム、アメリシウム、キュリウムには、半減期が数万年に及ぶものもある)が含まれており、時間経過による減衰は考慮できないため、短寿命で放射線量の多い放射性物質の減衰を目的として、一定期間の管理を行ったうえで、人間界から隔絶するために地下深くに埋設して処分する地層処分が、主に関係する諸国で検討されています。ドイツでは既に地下の岩塩層や廃鉱跡地に埋設処理することで具体的な対策を検討中だといいます。

しかし、日本では、地震や火山噴火等に耐える強固な施設でなくてはならず、地下水にも汚染がないよう地下300mの箇所に多重バリアを引いて処理する手法が考えられていますが、場所の選定からして大変であり、候補地の目途すら立たない状況です。今回の福島原発事故で、候補地選定は一層困難になったでしょうね。

また、核分裂生成物の30年減衰保管管理はコストがかかり、半減期の長い長寿命核種を数億年も管理はできないので、高速増殖炉/加速器駆動未臨界炉で中性子を当てて核分裂させ半減期の短い物質に変えて燃やしてしまう処理方法も研究されていますが、高速増殖炉は「もんじゅ」での事故など、開発中の高速増殖炉の多くが何らかの事故を起こすなど、安全性への疑問が多くの国で生まれ、将来の経済性までも含めて政治的な判断によって開発を断念する国が少なくありません。
さらに、核兵器の材料となる分離・回収したプルトニウムを大量に加工・保有することに対して、国際的な懸念や批判がありますし、プルトニウムを含むMOX燃料輸送時には、テロリストやその支援国家などに核ジャックされる危険性もあります。
(ここまで、ウィキペディアなど複数資料を参照しました)

※参考 経済産業省 資源エネルギー庁 放射性廃棄物対策室 サイト
http://www.enecho.meti.go.jp/rw/hlw/hlw01.html

こんなやっかいなもの、狭い国土の日本で取り扱っていいものかと、ずっと疑問に思ってきました。原発は、ミサイル攻撃対策も考慮しなければならないでしょうし、戦争や紛争が絶えない愚かで欲深い人類が扱うには、まだ何万年も早いのではないでしょうか? そして、子孫に膨大な量の核廃棄物の負担を押し付けるのは、最も愚かな罪です。

それなら、どうしたらよいのか? 
現在の生活水準を維持したいのなら、地球温暖化説の根拠が怪しくなり崩れつつある今、とりあえずは太陽光発電などの代替が不十分なうちは、火力発電所を増設してエネルギー不足に対処するしかないでしょう(太古の地球の大気の二酸化炭素濃度は、現在より何倍も濃かったといいます)。それに石油資源は地下で微生物によって現在も生成され続けており、実質無尽蔵という説も、近年は有力になりつつあります。また、豊富な海底天然ガスの採掘、活用も有効でしょう。
そして、一方で、食糧不足の問題もありますし、人口を段階的に減らし、植物を増やす政策が重要と思います。

ベロフ新盤での明晰なドビュッシー、私も好きです。
プルトニウム239の半減期 約2万4000年。
ドビュッシー「前奏曲集 第1集」 完成から今年でまだ101年。

☆愛知とし子さんのお誕生日おめでとうございます!
こんな時代こそ、愛知とし子さんの奏でる美しく力強い音楽が、
何にも増して、人々に生きる勇気を与えますね!

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
いつも貴重なご意見をありがとうございます。
確かにお会いしたときに何度かお話はされていましたよね。

>こんなやっかいなもの、狭い国土の日本で取り扱っていいものかと、ずっと疑問に思ってきました。

恥ずかしながら、僕はこういう自体になってはじめて「実感」した次第でして。
チェルノブイリの時も大学4年でしたが、遠い国の話のように思っていました。
しかし、こうなったらひとりひとりが本気で真剣に考えなきゃいけないですね。
ご指摘のとおりだと思います。

>プルトニウム239の半減期 約2万4000年。

恐ろしいですね・・・。

>こんな時代こそ、愛知とし子さんの奏でる美しく力強い音楽が、
何にも増して、人々に生きる勇気を与えますね!

そうですね。がんばってもらいます!

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アレグロ・コン・ブリオ~第5章 » Blog Archive » 聖セバスティアンの殉教

[…] 真夏の黄昏時に厳しい日差しを避けるように室内で聴くドビュッシーは素敵。 ずっと彼の音楽に浸っていたい。ミシェル・ベロフの弾く「前奏曲集第1巻」や「子どもの領分」。嗚呼、これらは何て素晴らしい音楽なんだろう、そして何と美しい演奏なのだろう。さらに、シャルル・デュトワの棒による「海」、「遊戯」、交響的断章「聖セバスティアンの殉教」及び「牧神の午後への前奏曲」!!難解なステファヌ・マラルメの詩作を、その内容はともかくとしてその音の響きをそのまま音楽に仕上げたドビュッシーの天才。 すべてがこれらの音盤に詳細に刻み込まれる。 もう随分前からことあるごとに聴いてきた音盤だが、今日ほど沁みたことはないのでは。 試しに、音量を絞りごく小さな音で聴いてみよ。「ながら」、すなわち他の作業をしながらで良い。こんなにも日常溢れかえる自然の音と同化する音楽が他にあろうか。 […]

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