ショスタコーヴィチは神を見捨てていないのか?

当たり前だけど、日本人は日本語で思考し、アメリカ人は米語、ドイツ人は独語で物事を考える。英語を使って慣れ、第2外国語にすることは今の時代とても大切なことだが、生粋の日本人が英語で感じ、考えるようになるまでには相当に鍛練と時間を要する。結局現地に赴いて何年か生活するか、日本に居住のままならものにしたい言語を母国語にしている人を恋人にするのが手っ取り早い方法なんだろな。
どうしてそんなことを考えたのかというと、ここのところショスタコーヴィチ漬けになっていて、彼の作品を一つずつじっくりとひもといていくたびに、もちろんショスタコはロシア語をしゃべったわけだけれども、音楽家としてはもうひとつ大事な言語、つまり(彼の場合は)ピアノという楽器を縦横に操り、そして多くの場合ピアノで感じ、思考し、ピアノを使ってそもそも音楽を創造しただろうから、シンフォニーひとつとってみてもその原典たるピアノ版を聴かずしてショスタコーヴィチはある意味語れないだろうとふと思ったことに発する。
そして、もちろんもっと厳密に言うならある程度ピアノを弾きこなし、ピアノという楽器の性能を理解することまで要求されるだろうが、そこまではなかなか手に負えないのでせめてリリースされている本人アレンジのピアノ版はできるだけ手に入れて聴き込んでゆこうと考えた。

で、いろいろと調べてみると第4交響曲はもちろんのこと第9交響曲や第5交響曲のピアノ連弾版などはレコーディングされていることがわかり、手始めに最もポピュラーな第5番を手に入れ、何度か聴いてみることに。

・シューベルト:4手ピアノのためのソナタハ長調D812「グランド・デュオ」(1824年)
・ショスタコーヴィチ:交響曲第5番ニ短調作品47(4手ピアノ編曲版)(1937年)
グラウシューマッハー・ピアノ・デュオ

いや、これは凄い。ピアノの可能性を最大限に引き出し、管弦楽版に全く引けを取らない。そもそもそう簡単に演奏会に足を運べなかった、あるいはそうそうオーケストラを招集して演奏させることなど簡単にはできなかった時代の作品ということもあろう、家庭で(あるいは小ホールで)披露するには、そして楽しむのにはぴったりの大きさで、ピアノという楽器だけで多彩な音色を生み出す様は本当に魔法のよう。天才ショスタコーヴィチの成せる技なり。
ちなみに、この4手ピアノ版第5交響曲を聴いて思い出すのがベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア」ソナタ。第3楽章ラルゴなど、かの大作のアダージョ楽章に匹敵する深遠さ。フィナーレはさすがに「ハンマークラヴィーア」のそれに比べるべくもないが、それでもこの「勝利の歌」は見事なカタルシスを生む。(そういえば、「ハンマークラヴィーア」ソナタをワインガルトナーが管弦楽アレンジし、演奏した音盤があったが、あれも大変優れた編曲の演奏だった。誰か最新機器で録音しないだろうか)
それともう一つ。ピアノの音色そのもののせいもあろうが、ロシア正教の鐘の音が随所に聴こえる(ように僕には思える)。ショスタコーヴィチは神を見捨てていなかったのかも・・・。

こうなったらショスタコーヴィチの交響曲のピアノ連弾版を実演で聴いてみたくなるのだが、どこかでやらないものだろうか。「求めよ、さらば与えられん」、「決意し、あとは流れに身を任せ」。そんな淡い希望を抱いていたらいずれ近い将来誰かがステージにかけてくれるかな・・・。

※ところで、カップリングのシューベルトの方はまだ耳にしていない。いずれ気が向いたら聴くつもり。


2 COMMENTS

雅之

こんばんは。

ショスタコのオケ版第5や第1交響曲の楽器編成でピアノが入っているのは、作曲家のピアノ的思考法が抜けきれていなかったからかもしれませんね。彼の交響曲で総じて打楽器が多用されているのも、同じくピアノ的思考法の産物なのかも。

ショスタコの曲の中でピアノが出てくるのを聴くと、真冬の荒涼たる大地を驀進するシベリア鉄道と、どこまでも続く冷えきった線路が脳裏に浮かぶことがあります。そう、私がピアノを鋼鉄の楽器だと特に意識するのは、ショスタコを聴く時が多いのです。

ピアノ大好き少女も、鉄道大好き女史も、私に言わせれば同じ鉄を楽しむ「鉄子」(笑)。

鉄道→たたら製鉄→島根→出雲→神という本日私の連想から、所有しているこんなDVDをご紹介(笑)。

「寝台特急 出雲 – 終焉直前 雪の山陰を力走 – 城崎温泉~出雲市~出雲車両支部間 2006年3月18日」 ビコムワイド展望
http://www.amazon.co.jp/%E5%AF%9D%E5%8F%B0%E7%89%B9%E6%80%A5-%E5%87%BA%E9%9B%B2-%E7%B5%82%E7%84%89%E7%9B%B4%E5%89%8D-%E9%9B%AA%E3%81%AE%E5%B1%B1%E9%99%B0%E3%82%92%E5%8A%9B%E8%B5%B0-%E5%9F%8E%E5%B4%8E%E6%B8%A9%E6%B3%89%E3%80%9C%E5%87%BA%E9%9B%B2%E5%B8%82%E3%80%9C%E5%87%BA%E9%9B%B2%E8%BB%8A%E4%B8%A1%E6%94%AF%E9%83%A8%E9%96%93/dp/B000F7NU8C/ref=sr_1_5?s=dvd&ie=UTF8&qid=1331725671&sr=1-5

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
出ました!鉄ヲタ究極のDVD!
ほとんど僕の趣味の範囲ではありませんが、かの雅之氏をこれほどまでにのめりこませる何か大変な魅力がこの中にあるんでしょうね(笑)
少し勉強してみようかな、なんて思ったりします。

冗談はさておいて、確かにショスタコのピアノ的思考についてはそうかもですね。
しかしそれがまた魅力ですからね。
本日もありがとうございます。

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