巨匠から学生たちへ

連休の狭間だが講義はある。
初々しい1年生たちを見ていて思うこと。
かれこれ25年にわたって1万人近くの学生と接してきたが、本当に瓜二つの輩が存在するものなんだと。いつぞやの誰かに雰囲気が似ているとか、いや双子じゃないかと思うくらい顔がそっくりだとか・・・。世の中には自分に似た人間が3人はいるという定説があるが、確かにそういうものなのかも。それに、顔が似ていると性格、性質までもが同じようなのだからこれまた興味深い。思考や癖が顔相に出るというのもその通りなのだろう。

何だかとりとめのない話からスタートした。
まぁ良い。
世間は5月。早くも5月。程よい陽気と路面を微かに濡らす雨と。こんな日は独りでぼっと御苑あたりで時間を過ごすと良いアイデアが浮かぶのだろうか。いや、しかしもう夜だ。
では、いつものように静かに音楽でも聴こう。

巨匠から学生たちへ
大阪音楽大学特別演奏会
チャイコフスキー:
・バレエ音楽「白鳥の湖」作品20より
―第10番「情景」
―第13d番「四羽の白鳥たちの踊り」
―第13e番「情景:パ・ダクシオン」
―第20番「ハンガリーの踊り」
―第21番「スペインの踊り」
―第22番「ナポリの踊り」
―第2番「ワルツ」
・交響曲第5番ホ短調作品64
朝比奈隆指揮大阪音楽大学管弦楽団(1999.3.4Live、ザ・シンフォニーホール)

10数年前に大阪音楽大学に直接注文して購入したプライヴェート盤(CD&VTR)。演奏会の模様は、晩年のバーンスタインが札幌でPMFオーケストラの若者を相手に音楽を作り出してゆくその様を観るのと同じくらい感動的(こちらはリハーサル風景は収録されていないが)。御大十八番のチャイコフスキーの5番が、時間とともにアマチュア・オーケストラの演奏とは思えない高みに達してゆく。終わった直後に感動で涙する学生たちと朝比奈先生の好々爺たる優しさに満ちた表情と。
それにしても第1楽章冒頭ソロを含むクラリネットとファゴットの上手さよ。また、第2楽章のホルン・ソロも学生とは思えない朗々としたもので痺れる(終演後の彼女のホッとして涙する姿を観るだけで涙を誘われる)。もう何百回、いや何千回と耳にしているだろう第5交響曲を視聴してまた思わず感激した。チャイコフスキー・マジック、朝比奈マジックなり。

若者の能力を最大限に引き出すことが指導者の役割とするなら朝比奈先生こそはそういうオーラを持つ最後の日本の巨匠といえるかもしれない。見習いたいものだ。


6 COMMENTS

雅之

こんばんは。
ご紹介の先生の貴重な映像は、当然私などは持っていませんし視聴したこともありませんが、岡本さんは全部欲しいわけです。
ベートーヴェンやブラームスのも、岡本さんは全作品を聴きたいわけです。それは、好きで好きで堪らないからでしょう。

大作曲家や巨匠の最晩年から逆算して若いころを追っていくと、過去に思わぬ晩年への伏線を発見したりして興味は尽きません。朝比奈先生でいえば、名大オケとのブル8ハース版とか・・・。ご紹介の、晩年の若い音楽家との出会いも、きっと思わぬところでの過去の出会いといろいろ繋がっているのでしょうね。

そうすると、先日から話題のマイルス・デイヴィスも、晩年から逆算して追っていく聴き方だって、彼を理解する上でどうしても必要なのではないでしょうか? なぜ晩年あのようなジャズだったのか? そこには無数の必然を帯びた伏線が張り巡らされているはずです。いずれにせよマイルス・デイヴィスの人生は一筋縄ではいかず、全貌を全然よく知らない私は、到底軽々しくは語れません。

今私が鶴首して届くのを待ち侘びている、未来志向のブルックナー音盤

交響曲第9番(第4楽章付)補筆完成版 ラトル&ベルリン・フィル
http://www.hmv.co.jp/product/detail/4994391

交響曲第9番の 第4楽章補筆完成版から逆算してブルックナーの人生を遡る旅も、一興なのかもしれないなと思いました。

天国の朝比奈先生は、どう感じておられるのでしょうか? 
もし70年代に名大のオケが、「サマーレ、フィリップス、コールス、マッツーカ版(SPCM版)の最新版」を使ってブルックナーの9番を最後まで全部やりませんか!!と提案したら、先生はきっと喜んで乗り気になったはずです(笑)。 

返信する
岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。

>岡本さんは全部欲しいわけです。

これはもう一種病気であったりします(笑)。さすがに、最近は同曲異演盤が多すぎて、ここ1,2年のものは購入していないものが多いのですが・・・。

>大作曲家や巨匠の最晩年から逆算して若いころを追っていくと、過去に思わぬ晩年への伏線を発見したりして興味は尽きません。
>マイルス・デイヴィスも、晩年から逆算して追っていく聴き方だって、彼を理解する上でどうしても必要なのではないでしょうか?

おっしゃるとおりですね。どんな芸術家の場合でも、小林秀雄氏が言うように全部を緻密に知る必要がありますね。一生仕事です(爆)。

>いずれにせよマイルス・デイヴィスの人生は一筋縄ではいかず、全貌を全然よく知らない私は、到底軽々しくは語れません。

同感です。これは菊地成孔氏をしても同様の感想を持たれているわけですから、我々などは一生かかっても無理かもしれません。

>待ち侘びている、未来志向のブルックナー音盤
>第4楽章補筆完成版から逆算してブルックナーの人生を遡る旅も、一興なのかもしれない

これ、評判ですよね。このラトル盤いずれは映像で出るんでしょうかね?あるなら観てみたいものです。

>もし70年代に名大のオケが、「サマーレ、フィリップス、コールス、マッツーカ版(SPCM版)の最新版」を使ってブルックナーの9番を最後まで全部やりませんか!!と提案したら、先生はきっと喜んで乗り気になったはずです

こういう空想(妄想?)いいですねぇ(笑)

返信する
雅之

「巨匠の最晩年から逆算して若いころを追っていく」という今回の私のコメント、「チャイ5」という、核となるキーワードを、自慢話になりすぎるのでわざわざ外したことにお気づきでしたでしょうか?
先生の長い指揮者人生最後の一曲は、言うまでもなく名古屋で大フィルを指揮したチャイ5。ご存知のように私は皆さんと違い、その実演に接しています(自慢)。いいでしょう。

朝比奈隆、チャイ5、名古屋、学生オケ、ブルックナー、版、といった伏線を、チャイ5を除いて全部網羅したコメントのつもりでした(笑)。

マイルス・デイヴィスは「引っ掛け」です(笑)。

返信する
岡本 浩和

>雅之様

もちろんそのことは忘れもしません。羨ましすぎます。

逆に今回の記事そのものを、雅之さんが朝比奈先生の名古屋での最後のチャイ5の実演に触れられているという前提で僕は書きましたから(笑)。

>マイルス・デイヴィスは「引っ掛け」です

こいつはやられました!
でも、おっしゃるとおりマイルスも同様だと思います。

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む