ケッヘル500番台のモーツァルト!

ケッヘル500番台のモーツァルトの作品は、どれも明るさの中に不思議な悲哀を湛えており、聴いていて、彼の世界の深みにどんどん引き込まれてゆく。
限りなく透明に近く、とてもこの世のものとは思えない瞬間が頻出。
晩年と言っても、まだ30代前半の青年。どうしたらこんなに悟り切った状態になれるのかと思うほど、無駄がなく隅々にわたって清澄で。
本日の講座では、ベーム&ウィーン・フィルによる「ジュピター」交響曲の抜粋、「アイネ・クライネ」抜粋、そしてバレンボイムによるK.488イ長調協奏曲の第1楽章とK.467ハ長調協奏曲から第2楽章を聴いた後、テーマ曲であるK.595を全曲視聴していただいた。

確かにウィーン時代の、精神的にも物質的にも満たされ全盛を誇った時代のコンチェルトの数々は見事な美しさとバランスをあわせもつ傑作揃いである。しかしながら、父レオポルト逝去後の、一層深みを増した作品群、すなわち三大交響曲や変ロ長調協奏曲などのK.500番台の音楽は、もはや人の手を離れ、宇宙と共鳴し、ひとつになる音楽として僕たちの眼前に現れる。若い頃は決してそんな姿勢では聴けなかった、そう、10代の頃に一生懸命に読んだ夏目漱石の作品群(あの頃は全く何も感じ取れていなかった)を今になって再読し、目から鱗の気づきを与えてもらうような、そんな「気づき」がいくつも講座中に脳裏を過った。ベーム&ウィーン・フィルによる、通俗曲として定番の「アイネ・クライネ」を聴いてすら、そのあまりの深遠さに目が眩みそうになったくらいだから、真にすごい(これは指揮者ベームの力量ということもあろうが、それにしてもモーツァルトの音楽が眩しすぎる)。

夜が更け、久しぶりにK.500番台のピアノ・ソナタがいくつか収められた音盤を取り出した。講座でも観ていただいた、つい最近Blu-ray化され蘇ったバレンボイムの弾き振りによる(オケはベルリン・フィル、安永さんや土屋さんのほかライスターなど懐かしい顔がズラリ)協奏曲集に触発されたということもあり(実にバレンボイムのピアノが明快でふくよか)、確か同じ頃に録音されたものから1枚。

モーツァルト:
・ピアノ・ソナタ第18番ヘ長調K.533
・ピアノ・ソナタ第15番ハ長調K.545
・ピアノ・ソナタ第16番変ロ長調K.570
・ピアノ・ソナタ第17番ニ長調K.576
ダニエル・バレンボイム(ピアノ)

僕は指揮者としてのバレンボイムよりピアニストとしての彼を圧倒的に支持してきたが(いや、これは少し偉そうな言い回しだ。ともかく比較は横に置いて、ピアニスト・バレンボイムは本当にすごいと思う)、今回弾き振りの協奏曲を見返してみて、指揮者としてもまったくぶれない、天才肌の人なんだとあらためて思った次第。

さてさて、K.533のソナタをどんな心境でモーツァルトは書いたのだろう?
名作「ドン・ジョヴァンニ」とほぼ同時期に生み出された最初の2つの楽章は、モーツァルトのソナタ中でも屈指の「哲学的深み」を持つ。経済的困窮の最中に食うものもまともに食わず、ただただ内なる自身と対峙する孤独のモーツァルト。その後K.570あたりの作品になると、もうこれは人間業ではない!!こんなにも独白的な美しさに満ちたピアノ作品が他にあろうか!こういう音楽を弾かせたらバレンボイムは滅法上手い(聴いていて思わず涙がこぼれそうなくらい。あまり評価は高くないように思うが虚心に耳を傾けてみるとこの音盤のすごさがよくわかると思うのだけれど)。彼の右に出る者はいないのでは?


5 COMMENTS

ふみ

モーツァルトと言えば、是非ヴェーグの38と41番を。これこそ私の中での究極の演奏です。

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雅之

あっ、グールド(吸引力抜群!)による愛聴盤
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1275647
を引き合いに出して、かの名高い女史をこのコメント欄にお誘いするのを忘れていました。

大変失礼しました m(__)m

どうせなら「四つ巴」でいきたいものです(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
朝令暮改ですな。
しかし、人間というのは矛盾の塊ですね。

先日のコメント
「芸術に対する価値観や共感する部分が鑑賞する年齢により変化するというのは、どんな名作を読みなおしても、どんな傑作といわれている芸術作品を鑑賞しなおしても、極めて日常よく実感することです。」のと甥だと思います。
http://classic.opus-3.net/blog/?p=10193#comments

>あっ、グールド(吸引力抜群!)による愛聴盤を引き合い出して

それはそれは!!
「四つ巴」、面白いじゃないですか!!
グールドのモーツァルト僕は好きですよ。

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