NHK交響楽団定期演奏会はいつ以来かと調べたらコロナ禍前。
パーヴォ・ヤルヴィが首席の時代なのではるか昔日の感。ちなみに、ファビオ・ルイージを聴いたのは10年前の定期でオルフの「カルミナ・ブラーナ」ほか(あれも圧倒的な名演奏だった)。ホール内の雰囲気が様変わりしていたのと、音響が良くなったように感じたのだが、気のせいか。それに、あの巨大なホールが3階席までほぼ満員なのだから驚いた。
期待通りの凄演だった。ブルックナーの音楽が音の分離も実に良く、3階席まで確実に、そして鮮明に届いたのだから恐るべし。未だ興奮冷めやらない。
アントン・ブルックナーの第一念。
一般には粗削りだといわれるが、それは後の稿に比してのこと。音楽的には十分インスピレーションに溢れ、魅力的なフレーズが多出する。よく知った楽想にくっつく(余分な?)細かい楽想もすべてが可憐(ブルックナー中毒者には一切の無駄はないのである)。何より、当時の他の誰にもまねのできなかったであろう前衛性が随所に垣間見えるところが最高だとあらためて思った。
ファビオ・ルイージの、メリハリの効いた、抉るべきところは徹底的に抉り、さらっと流すべき楽想はさらっと、小気味の良いテンポで90分超。どの瞬間も集中力途切れず、ブルックナーの初稿の素晴らしさを追体験した思い。まさにブルックナーが人生を賭して書いた未来音楽極まれり、だ。
NHK交響楽団第2016回定期演奏会(Aプログラム)
2024年9月14日(土)18時開演
NHKホール
郷古廉(コンサートマスター)
ファビオ・ルイージ指揮NHK交響楽団
・ブルックナー:交響曲第8番ハ短調(第1稿/1887年)(1884-87)
未整理だととかく知識人はいうけれど、作曲者本人が一旦完成とした交響曲は、隅から隅まで魅力的。こういう音楽はとにかく実演で聴くに限る。アレンジから楽器のバランス、アーティキュレーション、すべてが、僕たちが通常知る第8番とは異なる(革新的)。しかしながら、基本的な楽想や構成はほぼ同じものが使われているため、新たな作品を聴くようで実に面白い。
というより個人的には、40余年前、初めてこの作品を音盤で聴き、そして、40年前初めて朝比奈隆の実演でこの作品を聴いた、あのときの興奮と感動が蘇ってきた。
第1楽章アレグロ・モデラートのコーダ最後は、第1稿においてはハ長調で高らかに鳴らされる(これはこれで何と魅力的か)。第2楽章スケルツォのトリオも聴き慣れないフレーズが現出する(いかにも人間臭い、優しくも美しい旋律だ)。なるほど、ブルックナーのゲネラルパウゼの意味と意義が良く生きる。
そして、30分に及ぶ第3楽章アダージョの幽玄さ。ルイージはこれでもかというくらい粘るところは粘り、すっきり走るところは走り、飽きさせない。しかも、大音響のシーンも決して無機的な響きに陥らず、静かな箇所においてはしんみりと聴かせてくれた。
白眉は終楽章だろう。第1主題のファンファーレから見事としか言いようがない圧倒的な音響で聴く者の心を抉る。それにしても興味深いのは後に削られることになった小さな楽想たちの美しさだ。
例えば、コーダ前、第3主題がフーガ的に展開される直前の「歌」、あるいは、第1楽章第1主題が再現された直後、コーダ直前のティンパニによる弱音での連打!
それにコーダそのものも後半漸弱からの一気に爆発というシーンがあり、この効果はやっぱり抜群だと個人的には思った。
アントン・ブルックナーは天才。
今月は生誕200年記念月。
岡本さん 熊谷です、大変ご無沙汰しています。いつもブログを拝見させてもらっています。N響定期のブルックナー8番、土曜日に聞かれたのですね。私は昨日、日曜日の昼に聞いてきました。すばらしかったですね。
岡本さんが書かれている通りと思います。実はインバルの8番の初稿のCDを持っていて、CDだとあまり良さがわからずつまらないと思っていましたが、生できくと、本当に良いところがたくさんあってすばらしい、これはこれで十分立派だと思いました。また演奏もすばらしかった。ルイージはこうした大曲はとても良いと思います。そういえばカルミナでご一緒したのはもう10年前なのですね、びっくりです。私は N響はAの日曜日、Cの土曜日のどちらも昼間で、家内と定期会員になっていて、やはり3階で聞いていて、AはR側、CはL側にいます。また機会があればぜひ
お目にかかりたいですね。またよろしくお願いします。
熊谷さん
大変ご無沙汰しております。
ひょっとすると誰かにお会いできるかなと思っておりました。
日曜日の会員でしたか!
(お会いできず残念です)
最近はブルックナーでも初稿や改訂版を喜んで聴く日々です。
数年前に聴いたロジェストヴェンスキー指揮読響の第5番(シャルク改訂版)、またカンブルラン指揮読響の「ロマンティック」(レーヴェ改訂コーストヴェット校訂版)など最高の名演でした。弟子たちの改竄版と揶揄されることも昔は多かったですが、なんだかんだ言ってブルックナー本人の了承を得ているわけですから、あれも立派な稿だと昨今は考えます。
第8番初稿も素晴らしかったですね!
頻出する聴き慣れないフレーズもブルックナーの創造物ですからどれも意味があります。
また近いうちお目にかかれることを楽しみにしております。