バックハウス ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第30番ホ長調作品109ほか(1961.11録音)

ベートーヴェンは1770年もあと半月で暮れるという12月の、ほぼ確実に16日に生れ、17日に洗礼を受けた。したがって年齢を示すときには実質的に1771年生れと言ってよく、1783年のほとんどにおいて彼は12歳であった。
大崎滋生著「ベートーヴェン像再構築1」(春秋社)P295

ベートーヴェンの生年月日については二通りの説があったが、どうやら12月16日で間違いなさそうだ。クリスティアン・ゴットロープ・ネーフェ(1748-98)の指導の下、ベートーヴェンの最初の作品「ドレスラーの行進曲によるクラヴサンのための変奏曲WoO63」が出版されたのは1782年だった。

Mikhail Pletnev (piano)

ネーフェが用いた教材のなかにヨハン・ゼバスティアン・バッハの《平均律クラヴィーア曲集》が含まれていたことは、前述した彼のクラーマー編『音楽雑誌』1783年3月30日号への寄稿記事(寄稿日は3月2日)から明らかで、その事実は音楽事典の項目レヴェルでも必ず引用されているので大変有名である。
~同上書P297

Backhaus Bach Recital

ベートーヴェンの原点にはバッハの「平均律」があった。
そして、すべてはここから始まった。
ベートーヴェンの作品に通底するのは神への憧憬であり、敬虔な祈りだ。彼は決して正面切っての宗教家ではなかったが、目に見えないものへの信仰については人一倍強いものがあったように思われる。信仰、そこには主体性があり、真我にまみえんとする大いなる欲求が確かにあった。
ベートーヴェンの、全生涯を通じて網羅されるピアノ音楽の作曲は常にチャレンジングであり、そこには常に革新があった。変化というより文字通りの昇華。途轍もない高みに到達した最後のソナタ群の神々しさ。

ベートーヴェン:
・ピアノ・ソナタ第30番ホ長調作品109
・ピアノ・ソナタ第32番ハ短調作品111
ヴィルヘルム・バックハウス(ピアノ)(1961.11録音)

録音から60余年を経た今も燦然と輝く人類の至宝。
テクニックにおいても表現においても今ではこの演奏より優れたものは確かにあろう。しかし、多少の技術的な衰えをものともせず、推進力抜群の、ベートーヴェンに対する絶対的奉仕を胸に虚心にピアノに向かう老ピアニストの思念がこれほどまでに乗り移った、神がかりの演奏は他にない。

作品109も、もちろん作品111も、どちらかというと颯爽たるテンポで自由奔放に、しかし、実に透明感を獲得しつつ奏される様子に言葉がない。特に、作品109第1楽章ヴィヴァーチェ,マ・ノン・トロッポの優美さ、同時に作品111第2楽章アリエッタのクライマックスに向けて昇華される魂の調べに恍惚となる。

1826年12月5日にヴァヴルッフ博士による初診の後、10日にベートーヴェンの容態は急変し、黄疸が現れ、腹水もたまってきた。医師団が形成され、20日に外科医のヨハン・ザイベルト博士の執刀で1回目の腹水除去手術が行なわれた。

彼はこの時点で自分の死が近いことを覚悟した。そして1月8日に2回目の腹水除去の手術を受け、2月2日には3回目、そして2月27日が4回目、最後の手術となった。
大崎滋生著「ベートーヴェン像再構築3」(春秋社)P1138

壮絶である。短期間の度重なる手術によって殺されたも同然だ・・・。

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの197回目の忌日であり、またヴィルヘルム・バックハウスの140回目の生誕日に。

過去記事(2015年8月8日)
過去記事(2013年5月11日)


コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む