クリュイタンス指揮フランス国立放送管 ラヴェル 「ダフニスとクロエ」第1&第2組曲(1953.6録音)ほか

アンドレ・クリュイタンスの旧い方のラヴェルの作品集が素晴らしい。
「灼熱の」とでも表現すれば良いのかどうなのか、形容し難い、モーリス・ラヴェルの天才的な音楽がクリュイタンスという別の天才の中で見事に昇華されアウトプットされる様子に、果たしてこの録音を今の今まで聴き漏らしていた自分を恥じた。

1950年代のクリュイタンスの若き(?)血潮!
すべての音に共感するかのような内燃する激しさ。何とヒューマニスティックな音楽であることか。

いつぞや吉田秀和さんは「名曲300選 わたしの音楽室」で次のように書いていた。

ドビュッシーとならんで、《印象派》に数えられる、もう一人の魔術師ラヴェル(Maurice J. Ravel 1875-1937)になると、前にショパンとシューマンについてジッドがいった比較を、ここにもちだすのも、不可能ではないかもしれない。つまりドビュッシーは詩人であり、ラヴェルは芸術家だった。ラヴェルは、ブラームス、チャイコフスキーらと同じように、非常に完成度の高い作品をかいた、音楽の質はまったくちがうにしても。だから、私たちは、彼のどの作品についても、それが「実によくかけている」ことを感じる。しかし、芸術の質ということになると、彼にはドビュッシーのあの天才の高さというか、どこまでいても説きつくせない不思議なシャルムの点で、一歩ゆずる。また、彼は、その後の音楽に、つまり《現代の音楽》に、ドビュッシーほど大きな寄与はおよぼしていない。
「吉田秀和全集7 名曲300選」(白水社)P209

昭和36年の刊行ゆえ、その論には古くささを感じさせるものが正直ある。今なら間違いなくアップデートされているところだろうが、そもそもドビュッシーとラヴェルを同一線上に並べて論じる対象ではないことを僕たちは知らねばならない(ブルックナーとマーラーを並べて論じるのと同じように)。

僕にはドビュッシーとはまったく異なる観点で、ラヴェルの音楽はどこまでも説きつくせない高く、そして不思議なシャルムの中にある。最高なるはやはり「ダフニスとクロエ」だ。

ラヴェル:
・組曲「クープランの墓」M.68a(1919)(1953.3.31録音)
・ボレロM.81(1928)(1953.4.30録音)
・道化師の朝の歌M.43(組曲「鏡」第4曲)(1904-05)(1953.6.16録音)
・「ダフニスとクロエ」第1組曲M.57A(1911)(1953.6.16録音)
・「ダフニスとクロエ」第2組曲M.57B(1912)(1953.6.16録音)
マルセル・ブリクロ合唱団
アンドレ・クリュイタンス指揮フランス国立放送管弦楽団

パリはシャンゼリゼ劇場での録音。
「ダフニスとクロエ」組曲が最高。

第1組曲
・夜想曲
・間奏曲と全員の踊り
第2組曲
・夜明け
・ダフニスとクロエの無言劇
・全員の踊り

エロティックな生命力こそラヴェルの真骨頂であり、1950年代のクリュイタンスの棒の成せる業。後のステレオ盤の洗練とはまた異なる、芯の太い、野放図な(?)ボレロもまた聴きものだ。


2 COMMENTS

タカオカタクヤ

竹内喜久雄さんでしたか、世評高いクリュイタンス&PCOのステレオ録音のラヴェル管弦楽曲全集は、いかにも国際市場に向けてのデモンストレーション的演奏な感じで、好きになれない‥と、書いておいででした。むしろ、モノーラル時代の主にフランス国立放送管弦楽団とのフランスものにこそ、クリュイタンスの真骨頂がある‥とのご結論でしたね。
かつて東芝音工が、LPでこの時期の録音をまとめて下さってましたが、私はフォーレの『レクイエム』(アンジェリシとノグェラ独唱)くらいしか、聴いておりません。一度、じっくり接してみたいものですね。

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岡本 浩和

>タカオカタクヤ様

貴重な情報ありがとうございます。
ほー、そうでしたか!
確かにステレオ録音には竹内さんがおっしゃるような感もあるように思えます。
ただし、やっぱりそれはそれで最高の録音だと僕は思うのですが。
ちなみに、クリュイタンスのEMI録音ボックスにはフランス国立放送管とのものがおそらくほぼすべてが収録されていると思います。まだすべては未聴なのでこれからじっくり聴き込むのが楽しみです。

そういえば、旧い方のフォーレのレクイエムもとても素晴らしいと思い、記事にしておりました。
https://classic.opus-3.net/blog/?p=31964

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