残暑厳しい。真昼は灼熱地獄だ。
この8月はイベント続きであっという間に過ぎ去る感じだが、聴いた音楽を振り返ってみると、ドビュッシーやらベルクやら、あるいはエルガーやら、その後の20世紀音楽の方向性を決定づける大音楽家たちの作品を随分集中して聴いたものだ。
彼らが同時代のヨーロッパに生き、それぞれがそれぞれの国で活動、そして名曲群を生み出していたという事実。そのことに思い至るだけでどうにもクラシック音楽というものの幅の広さに驚喜し、ますます好奇心が募り一層知りたくなり、たくさんの方々にその素晴らしさを教示したい気持ちに駆られる。
先日の”Music Door Academic”における徳川眞弓さんのドビュッシー、そして生誕150年のまさにその当日に加納裕生野さんのドビュッシーを聴いて、ドビュッシーこそがそれまでの概念を吹っ飛ばし、和音の拡張を試み、古のモード進行というものを音楽の世界に呼び覚ました和音の革命家であることを再確認した(徳川さんの「沈める寺」、そして加納さんの「映像」第1集&第2集などは本当に素晴らしかった)。そして、徳川さんがコンサートのアンコールにフリードリヒ・グルダの「アリア」を演奏された時、ドビュッシーからジャズ音楽へとつながる20世紀音楽史の一端を垣間見た。
さて、暑さを避けるという意味でも浮遊感漂う音楽をゆったりと聴いてみたい。
ならば、ドビュッシーか・・・。否、ここはそのドビュッシーが扉を開け、マイルスにつないだモード・ジャズを。本来なら”Kind Of Blue”あたりが妥当だが、今日のところは、モード前夜、鬼才ギル・エヴァンスと組んで録音したガーシュウィンの名作「ポーギーとベス」。久しぶりに酔った。
歴史を横軸で切ってのぞいてみるのは興味深い。
アルバン・ベルクが自身の死を意識しながら最後の作品ヴァイオリン協奏曲を書き進めていたちょうどその頃、海の向うのアメリカではジョージ・ガーシュウィンがミュージカルの先駆けともいえる黒人のための歌劇「ポーギーとベス」で成功を収める。その後、この音楽をジャズ・ミュージシャンがこぞって採り上げるようになるが、中でもマイルスがギルとのコラボで成し遂げたこのアルバムの価値は今もって計り知れない。
マイルスのトランペットは生き物だ。女声と男声を見事に吹き分け、この20世紀の誇るフォーク・オペラがまるで最初からマイルスとジャズ・オーケストラのために書かれた作品なのではという錯覚に陥るほど。名作”Summertime”はもちろんのこと、”Prayer (Oh Doctor Jesus)”など身震いするほど感動的(“Bitches Brew”の先取りのよう)。マイルスのペットが吠える!!
ドビュッシーとマイルスが時間軸でつながり、ベルクとガーシュウィンが空間軸でつながる・・・。何とも素敵。
[…] Miles Davis PORGY and BESS […]