アラン・シヴィル&マリナーのモーツァルト協奏曲K.495(1971.9録音)ほかを聴いて思ふ

日記の類を読み漁るのは本当に面白い。
時代背景はもちろんのこと、その人の内面までもが垣間見られ、「事実は小説より奇なり」という言葉通り、そこには真実があり、フィクションでは味わえない感動がある。

大岡昇平さんと吉田秀和さんの1982年頃の対談で、大岡さんが、あみんの「待つわ」を聴いておられたという事実を知って驚いた旨を、先日書いた。
大岡さんという人はワーグナーを性交音楽と評して決して受容しなかった人だけれど、当時流行したいわゆるニュー・ミュージックの類などにも精通されており、彼の文学作品同様そのことが実に興味深い。

大岡昇平さんの晩年の日記をまとめた「成城だより」が良い。

1981年2月16日土曜日曇
終日、ベッド。3時半、ニッポン放送のドーナツ盤売上げベスト・テンを聞く。うち歌謡曲は沢田研二「TOKIO」の9位、小林幸子「とまり木」8位、五木ひろし「おまえとふたり」5位のみ、あとの7つはニュー・ミュージックとはなんとなくいい気持なり。1位、クリスタル・キング「大都会」がダントツ(断然トップか段違いトップか)にて、折柄受験シーズンにて、景気のいい歌いぶりがもててるとの説あり。2位、オフコース「さよなら」。3位、財津和夫「ウエイクアップ」、久保田早紀の「異邦人」は先週までの2位から4位に落ちた。いずれもリズムに変化あるのが特徴(いい加減で暖かくなってほしい。生活のリズムを変えたい)。ただし「別れ」の歌ばかりなること、面白くなし。
このうちクリスタル・キングと久保田早紀がテレビへ出るから、歌謡曲とみなせる。南沙織が引退してから、歌謡曲番組見たことなけれども、ニュー・ミュージックで、少し聞く気になった。ドーナッツ盤買わされている。
大岡昇平「成城だより上」(講談社文芸文庫)P49-50

頭は「ドーナツ盤」、お尻は「ドーナッツ盤」と表記が異なっているのは耄碌なのか(?笑)、愛嬌なのか(あるいは単なる誤植?)。僕にとっては、高校2年生の、まだまだクラシック音楽一辺倒になるかならないかの端境期のことゆえ、すべてが昨日のように懐かしく、大岡さんのおっしゃる「ニュー・ミュージックで、少し聞く気になった」という気持ちがよくわかる。どの作品も本当に素晴らしく美しい楽曲だと今でも思う。

ところで、ちょうどその頃、僕はクラシック音楽にはまり込む途上で、FM放送で音源を仕入れながら、少しずつ音盤を買い集めていた。岡崎公園にあった京都会館で催された十字屋の大々的な輸入盤フェアで仕入れた蘭フィリップスのアラン・シヴィル&ネヴィル・マリナーのモーツァルト「ホルン協奏曲集」が今でも手元にあるが、久しぶりに聴いて、その優しく柔らかい音質と音色にあらためて心動いた。

モーツァルト:
・ホルン協奏曲第1番ニ長調K.412/514(386b)
・ホルン協奏曲第4番変ホ長調K.495(カデンツァ:アラン・シヴィル)
・ロンド変ホ長調K.371(アラン・シヴィル補筆完成、カデンツァ:アラン・シヴィル)
・ホルン協奏曲第3番変ホ長調K.447(カデンツァ:アラン・シヴィル)
・ホルン協奏曲第2番変ホ長調K.417
アラン・シヴィル(ホルン)
ネヴィル・マリナー指揮アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ(1971.9録音)(PHILIPS 6500-325)

当時、擦り切れるほど聴いたアナログ盤の熱は健在。
僕にとってモーツァルトのホルン協奏曲の原点。特に、第2番K.417は絶品!!

その後数年のうちにまったくポピュラー音楽を聴かなくなってしまった僕にとって、大岡さんが絶賛するその翌年のナンバーワン・ソングである「待つわ」は、相当ヒットしたから当然知ってはいたけれど、浪人時代ということもありほとんどテレビを見なくなってしまっていたことも手伝って、歌詞の詳細までを押さえるほど聴き込むということはなかった。それがちょうど今から10年前にあみんが復活したのを記念してリリースされた2枚組を繰り返し聴くうち、岡村孝子の才能の素晴らしさを再確認したのである。

・あみん:P・P・S・あなたへ・・・(2007)

わずか1年5ヶ月という活動期間しかなかったあみんのファースト・アルバムと全シングル盤、そして結果的に最後となったカヴァー・アルバム「メモリアル」の完全網羅。何度聴いても涙が止まらないくらい素晴らしい。特に「待つわ」(アルバム・バージョン)の悲しくも絶妙なアレンジ!!言葉がない。

私待つわ 〇〇〇〇〇〇つわ
〇〇〇〇〇〇が ふり〇〇〇〇〇〇くても
待つわ 〇〇〇〇〇〇つわ
他の誰かに 〇〇〇〇〇〇れる日まで
(作詞:岡村孝子)

ちなみに、ビートルズの”For No One”の間奏でホルン・ソロを吹いているのが当時、フィルハーモニア管弦楽団で首席にあったアラン・シヴィルであることは有名な話。

・The Beatles:Revolver (1966)

Personnel
John Lennon (lead, harmony and backing vocals, rhythm and acoustic guitars, Hammond organ, harmonium, tape loops, sound effects, tambourine, handclaps, finger snaps)
Paul McCartney (lead, harmony and backing vocals, bass, acoustic and lead guitars, piano, clavichord, tape loops, sound effects, handclaps, finger snaps)
George Harrison (lead, harmony and backing vocals, lead, acoustic, rhythm and bass guitars, sitar, tambura, tape loops, sound effects, maracas, tambourine, handclaps, finger snaps)
Ringo Starr (drums, tambourine, maracas, cowbell, shaker, handclaps, finger snaps, tape loops, lead vocals)

And in her eyes you see nothing
No sign of love behind the tears
Cried for no one
A love that should have lasted years
“For No One”

哀しい失恋の歌に、シヴィルの悲し気なフレンチ・ホルンの響きが相応しい。
大岡昇平さんはもちろんビートルズもよく聴き、知っていらしたことだろう。
時代や地域や、あるいはジャンルや、そういう枠を超えて、素晴らしい音楽は永遠。

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岡本浩和の音楽日記「アレグロ・コン・ブリオ」

[…] あみんが解散から20余年を経て再結成し、ファンの前で見事な歌唱を見せてくれたあのとき、僕はコンビの永遠というものを思った。長い時間2人を隔てた時間も空間も、その「信頼」を前にしてはまったく障害にならなかった。2人が初めの一歩から共にあり、苦楽を共にしたその経験に裏打ちされた「信頼」こそが、何にせよアンサンブルの鍵なのだと思う。 昔、サイモン&ガーファンクルを初めて聴いたときも僕は同じようなことを感じた。 2人が出逢う不思議な運命の糸というものが本当にあるのだと思った。 糸はすなわち意図。誰の意図なのかは知らないけれど。 […]

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