
間奏曲、そして回想(Rückblick)。
何と素敵なタイトルなのだろう、メルドー自身による解説が、アルバムの本質をものの見事に言い当てる。
3番目のディスクは、「間奏曲と回想(Rückblick)」のような性格を持つと考えます。このタイトルからブラームスのピアノ・ソナタ第3番ヘ短調作品5の最後から2番目の楽章を思い浮かべるでしょう。” Rückblick”とは、過去を振りかえること、あるいは再評価を意味します。ブラームスの間奏曲楽章(第4楽章)は、最終楽章に移る前に、このソナタの前楽章で起こったことを回想するものでした。
ディスク3は、20歳のブラームスが書き上げた渾身の大作の、変ロ短調の第4楽章がいわばモチーフになっているのである。
・Brad Mehldau:10Years Solo Live (2015)
Personnel
Brad Mehldau (piano)
各々原曲と比較してメルドーの想像力と創造力、あるいは再生能力、即興力などその天才に驚喜する。時には、ベートーヴェンが「ディアベリ変奏曲」で成した、ほぼ主題の原形を留めない恐るべき性格変奏のような実態に、ブラッド・メルドーこそベートーヴェンの生まれ変わりではないのかと思うほど。
1.Brad Mehldau:Lost Chords (2005.7.10Live)
2.John Coltrane:Countdown (2005.7.10Live)
コルトレーンのこのコード進行が何年も彼の想像力をかき立ててきたらしい。そして、メルドーは即興の中で、動きの速いハーモニーをいかにつなげるかを楽しむ。
3.Frederic Loewe / Alan Jay Lerner:On the Street Where You Live (2005.7.10Live)
ほんのわずかな期間ライヴで採り上げたものの、彼が二度と弾くことがなかったミュージカル「マイ・フェア・レディ」からの甘美なバラード。
4.Thelonious Monk:Think of One (2004.8.4Live)
メルドー曰く、(彼のアイドルたる)モンクを演奏するときには、バッハをやるときと同様のパラドックスがあるそうだ。モンクと完全に同化しつつ、その中にメルドー自身を投影しなければ演奏する意味がないからだという。
(これは実に素晴らしい演奏)
5.Antonio Carlos Jobim, Brad Mehldau:Zingaro / Paris (2005.7.10Live)
メルドーのお気に入りはエリス・レジーナが歌ったバージョン。彼女がこの歌を歌うとき、彼女に永遠に歌い続けて欲しいと望む。(メルドーがインスパイアされたのはまさしくこのバージョンだ)
6.Brad Mehldau:John Boy (2011.3.29Live)
7.Johannes Brahms:Intermezzo in B flat major, Op.76:No.4 (2011.6.7Live)
ブラームスはメルドーの大のお気に入り。(フレイレの演奏ももちろん悪くないが、メルドーの縦横無尽の表現に言葉がない)
そして、次の2曲は共に嬰ハ短調で、コンサートでは常に素晴らしい効果を上げる対のような作品だと彼は言う。
8.Paul McCartney:Junk(2004.11.17Live)
9.Brad Mehldau:Los Angeles II (2004.11.17Live)
10.Thelonious Monk:Monk’s Mood (2004.11.17Live)
ジョン・コルトレーンとの演奏に光を見出すメルドーの妙。これぞお気に入りのセロニアス・モンクだそうだ。
11.Thom Yorke / Jonny Greenwood / Colin Greenwood / Phil Selway / Ed O’Brien:Knives Out (2004.11.17Live)
僕個人としては、アルバムの途中に挟まれる愛すべきブラームスの、まさに「間奏曲」たる作品76-4のジャズ的揺らぎが堪らなく美しく感じ、それを中心に展開されるメルドーのお気に入りポップスが、変容する様に心から感動する。
完全無欠だ。


