ヨッフム指揮ボストン響 モーツァルト 交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」ほか(1973.1録音)

ワルター指揮コロンビア響 モーツァルト 交響曲第41番K.551「ジュピター」(1960.2録音)ほか 

少年の頃のある時期、僕はモーツァルトの音楽に一途だった。
ト短調交響曲、「ジュピター」交響曲など、ブルーノ・ワルターが最晩年にコロンビア交響楽団と録音したレコードを繰り返し聴いて、悦に浸っていた。
そんな僕がある日、ラジオで流れた演奏を聴いて一層心を動かされたのがオイゲン・ヨッフムによるものだった。

ヨッフム指揮バンベルク響 モーツァルト 交響曲第41番K.551「ジュピター」(1982.3録音)ほか ヨッフム指揮ウィーン・フィルのモーツァルト「ジュピター」K.551ほか(1981.9.20Live)を聴いて思ふ ヨッフム指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管のモーツァルト「ジュピター」ほか(1960.12録音)を聴いて思ふ ヨッフム指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管のモーツァルト「ジュピター」ほか(1960.12録音)を聴いて思ふ

残念ながらオーケストラがどこだったのかは記憶の彼方だ。
60年代のアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団によるものだったか、あるいは80年代のウィーン・フィルとのものだったか(少なくともそれはない。当時この実況録音盤はリリースされていなかったから)、あちこち探した。

どうやらそれは(珍しく)ボストン交響楽団とのドイツ・グラモフォン盤だったようだ。
割合に速めのテンポをとり、一気呵成にモーツァルトの真髄を駆け抜ける第1楽章アレグロ・ヴィヴァーチェの生命力に当時僕は感動したのだった。
同時に、崇高で瑞々しい情感に支配される第2楽章アンダンテ・カンタービレにも痺れたことを思い出す。

・モーツァルト:交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」
・シューベルト:交響曲第8番ロ短調D759「未完成」
オイゲン・ヨッフム指揮ボストン交響楽団(1973.1録音)

第3楽章メヌエットは純ドイツ風の堂々たるもので、地の底からヒューマニスティックな喜びが湧き立つよう。
白眉は終楽章アレグロ・モルト!
いわゆる「ジュピター音型(ド・レ・ファ・ミ)」主題の、フーガの技法を駆使して繰り広げられる崇高な音宇宙。モーツァルトの最高傑作のひとつがヨッフムの棒によって大きな拡がりをもって表現される。

ちなみに、作曲当時、モーツァルトの経済状況はほぼ破綻していたといわれる。
にもかかわらず、3つの交響曲やピアノ三重奏曲、ピアノ・ソナタなどの逸品を短期間に創造し続けたのだと。

こんな事態になりましたことは本当に残念ですが、それゆえかえって、こんな事態を予防するためにも、やや多額のお金を、やや長期にわたってお貸し頂きたいと思います。もっとも親愛なる同志よ、あなたがもしかような事態にある私を助けて下さらないならば、私が守りたいと思っている唯一のものたる名誉と信用を失ってしまいます。
(1788年6月27日付、プーホベルク宛)
柴田治三郎編訳「モーツァルトの手紙(下)」(岩波文庫)P139

果して彼の状態が実際どうだったのか?
巷間有名な、毎日のような無心の手紙のやりとりを見るだけでは真相はわからない。
(実際はすべて冗談の手紙であり、実際はもっと幸福だったのではないか、そんなことも想像させるくらい当時のモーツァルトの音楽は人間業を超えたものだった)

ただ残されたのは人類の至宝たる屈指の名作たちだった。
これだけが真実だ。

コメントを残す

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む