デュトワ指揮モントリオール響のスッペ序曲集(1984.10録音)を聴いて思ふ

メロディ・メイカーの脳みそはいったいどんな風になっているのだろうか?
彼らは突然ひらめくという。まるで、天から旋律そのものが降ってくるようだというのだ。

養老孟司さんが、かつてベストセラーになった「バカの壁」でピカソについて次のように書いておられたことを思い出した。

おそらく彼は自分の視覚野というものを非常に上手にコントロールできていた。頭の中のリンゴのイメージを自在に変えるということは普通の人はできない。
空間配置がグチャグチャな絵を頭の中で浮かべてみろと言ったって、特定の機能を落とすということはできないでしょう。当然、目から入ってくれば、ひとりでに普通の像が脳の中で形成されてしまう。そこを上手に抑制して、一ヵ所をポーンと消すと、ああいう絵になる。それを経験的にちゃんと作ることができるというのは、大変な能力です。
養老孟子著「バカの壁」(新潮新書)P144

音楽の場合もおそらく、仮に空間配置と時間配置がグチャグチャであってもそれがひとりでに形成されてしまう、聴覚野を自在にコントロールできる人こそが天才の名を拝せられるのだろう。

フランツ・フォン・スッペの音楽は、今では一般に聴かれるのはいくつかの喜歌劇の序曲に限られたことだが、その昔は一世を風靡した(らしい)。
さすがに当時の人気作曲家の作品だけあって、現代においても頻繁に聴かれる「序曲集」を耳にすると、どの音楽も旋律に富み、リズムに溢れ、心を自ずと開放させる効果があるように思われる。彼はやっぱり天才なのだ。

僕は、いわゆるスッペの「序曲集」というものを日常聴くことは滅多にない。しかしながら、どうにも気持ちが晴れやかでないときに、彼の音楽は間違いなく気分を上げてくれる。あるいは、逆に、心がうきうきと愉しく喜びに満ちている、そういう気分のときも同じく一層。

ちなみに、時折耳を傾けたくなるのが、ポール・パレ―がデトロイト交響楽団と1959年に録音した音盤。古いものながら、さすがに”Living Presence”と謳うマーキュリーの優秀録音だけあり万全。そして、もう1枚、こちらは1980年代になるが、全盛期(?)のシャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団がデッカに録音した1枚も大変に素晴らしいもの。

デュトワという人は、こういう軽い(?)音楽をやらせると右に出るものはいないのかと思わせるくらい、棒さばきというか、音楽の細かいところにまで目が行き届いていて、しかも、ただ機械的に音符を音にするのではなく、とても充実した内容のある音楽として聴かせるのだから大したもの。ここしばらく新しい録音がないのが実に残念。

スッペ:序曲集
・喜歌劇「軽騎兵」序曲
・喜歌劇「ファティニッツァ」序曲
・歌付笑劇「ウィーンの朝・昼・晩」序曲
・喜歌劇「山賊の仕業」序曲
・喜歌劇「美しきガラテア」序曲
・民族劇「詩人と農夫」序曲
・喜歌劇「スペードの女王」
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団(1984.10録音)

通俗曲「軽騎兵」はともかく、「美しきガラテア」の静けさと優しさ。
そして、「詩人と農夫」に横たわる大自然を謳歌するような大らかさ。あるいは、「スペードの女王」にみる管楽器群の空間的広がりと時間的集中の堂々たる音調と勢いある愉快な旋律に感激。スッペは素晴らしい。

 

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