悲しくも温かいマズルカ

chopin_Mazurkas_Rubinstein.jpg日比谷の人気の少ない地下道を歩いていて、ふとショパンの「マズルカイ短調作品17-4」の悲しげな旋律が頭の中を駆け巡り、ほんの一瞬だが、得も言われない感情(つまり、「孤独!」というフィーリング)が身体中に走った。夕刻の忙しない時間帯に歩道を歩いていても、誰一人として他人のことなど気にせず、振り返ることもない。楽しそうに笑いながら語り合うカップルもいなければ、大声で怒鳴りあって激しく議論を交わす輩たちも当然見当たらない。皆ただ無言のまま足早に家路を急ぐだけ。何ともいえない味気のない風景・・・。

でも、だからこそ逆に大切な人が存在するという事実が一層際立つ。朝からの秋らしい冷たい雨の中で、余計に「人恋しさ」が募ってしまうのか、別に寂しいわけでも悲しいわけでもないのだが、ついつい「人の温かさ」を思い出し、そして人生を共有できる仲間やパートナーがいることの素晴らしさを再確認する。諸行無常であっても一度つながった人の心は簡単に切れるものではない。

時間と仕事に追われていると、人は今の状況をなかなか客観的に見ることができなくなる。少しばかり頭を冷やして仕事から離れ、ほんの少しの時間でいいから恋人と触れ合う、あるいは親友と芯から語り合う時間をとってみるのもいいのではないか。齷齪するのでなくそういう人間らしい生き方をしたいものだ。

慶應義塾大学大学院、高橋俊介先生の「習慣が作る自分らしいキャリア~キーフレーズでキャリアを考える」というタイトルの講演会を聞いた。キャリアに関する24のキーフレーズをもとに先生のこれまでのご経験から得たスピード感溢れるお話は、珍しく睡魔に襲われることもなくとても面白かった。いくつも納得させられる話があったのだが、「仕事に枠を作るのか糊代を作るのか」、「情はあるが義理がない沖縄に学ぶ多様性」、「育成の年功序列意識が組織を停滞させる」あたりのご意見は特に感銘深かった。

ショパン:マズルカ全集
アルトゥール・ルービンシュタイン(ピアノ)

ショパンの「マズルカ」は舞曲にもかかわらず概して深沈として暗い。僕が好きなイ短調作品17-4は、ワルシャワ時代の1824年にその初稿が作曲され、1833年パリにて改訂、出版された楽曲で、祖国ポーランド、ワルシャワ陥落の衝撃、そして悲嘆に暮れたショパン自身の感情が直接的に音に乗り移り、深い深い哀しみを湛える名曲だ。確かイングマール・ベルイマン監督作である「秋のソナタ」のBGMに使われていたように記憶する(違ったかな?定かではない・・・)。この映画は、最晩年のイングリット・バーグマン演じるピアニストである母とリブ・ウルマン演じる娘との心の葛藤、親子関係の深まる溝を強烈に描き出した名作だが、お互いに相手に表現することの出来ない「怒りや悲しみ」という負の感情を、一方が爆発させたときに垣間見る「愛の欠乏、つまりストロークの不足」について深く考えさせてくれる。ショパンのマズルカには、怒りや悲しみというマイナスのフィーリングと同時に、彼が祖国にいつまでも持ち続けた「愛」が投影されている。悲しくも温かい音楽なのだ。

ショパンの「マズルカ」はルービンシュタイン盤が随一だ。

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1 COMMENT

アレグロ・コン・ブリオ~第5章 » Blog Archive » ピアノ芸術の粋

[…] それにしてもルイサダの「マズルカ集」(新盤)は出色!!今日のところは思考がまとまらないので記事にすることは止めておくが、とにかくギリギリのところまで崩し、しかもその方法がこれまたセンス満点で(装飾も見事!)、この音楽がポーランドの農民のための舞曲だったことを再確認させてくれる。その分、いわゆる哀愁感が減退し、愉悦感が前面に押し出される傾向にあるが、ルービンシュタイン盤が随一の名演奏だと信じ込んできた僕にほんの少しだけれど考え直させる、そういう機会を与えてくれるとてもインパクトのある音楽が終始一貫する。 […]

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