The Doors~L.A. Woman

もう20年以上前のことだと記憶する。
多分何回目かにアメリカの西海岸を訪れた時に買ったものではなかったか。
久しぶりにジム・モリスンの遺作の詩集を斜めに読み返してみて、彼の持つ何とも崇高な芸術的センスと詩的表現能力の素晴らしさにあらためて舌を巻いた。ジムが27歳という若さで死ななければならなかった、その理由が何だかよく理解できる不思議な魅力に溢れているのである。英語を母国語としない僕が、何となくその綴りを眺めているだけで、奥底に秘められた意思までをも感じ取ることができることが何とも素晴らしい。

昨晩、イーヴォ・ポゴレリッチのソロ・リサイタルを聴いて感じたこと。このピアニストも日々苦悩し、三歩進んで二歩下がり、自分の中心軸を確固としたものにしようとしているんだなということ。とても偉そうな言い方だが、2年前のリサイタルでは、彼自身の個性が強過ぎたのではないのか。それが今では、そこにいる聴衆と「合気」しようとする無意識の姿勢が僕には感じられた。今回のコンサートに足を運んだ人々は、僕も含めて熱狂的なファンであるといえる。物珍しさに群がる一般のファンを一度蹴散らしておきながら、本当にわかってくれる人々だけを残して再度自らの芸術を提示する。時間をかけてそんな挑戦をしようとしたのではないかとも僕には思えるのである(考え過ぎかな・・・笑)。

ポゴレリッチの弾くリストのソナタを聴き、ものすごい「間」に続き、最後の一音が鳴り響いた後の数十秒に渡る静けさよ。あの中にこそポゴレリッチの真価を見た。そして、その場に居合わせる聴衆の意識の高さも感じられた。納得した。ポゴレリッチの変容を退化と見るか進化と見るか、それは各々の感性に任せられるだろう。別に批判的な意見があっても良い。100%に受け容れられるものなど世の中には存在しないのだから。

ところで、ジム・モリスンが亡くなる前に残した1枚のアルバム。モリスン・ドアーズとしての最後のアルバムは好き嫌いかが明確に分かれる代物だと僕は思う。しかし、僕が感じるにそこには確実に進化、深化がある。

The Doors:L.A. Woman

アナログ盤でいうところのB面1曲目は”Hyacinth House”。この楽曲の伴奏キーボードの旋律はショパンの「英雄ポロネーズ」からとられているのでは?偶然なのかもしれないけれど、どう聴いてもあの有名な主題である(このことはほとんどどこにも語られていないように思う)。そういえば、ジム・モリスンはパリで客死し、ショパンと同じペール・ラシェーズ墓地に葬られているわけだから何かしらの因縁はあるのだろう・・・。

ちなみに、先のモリスンの遺作詩集は最後の恋人であったパメラ・スーザンに捧げられている。冒頭に置かれた彼女への献辞。

for Pamela Susan

I think I was once
I think we were

Your milk is my wine
My silk is your shine

なんて美しく、これ以上ない甘い詩か。ジム・モリスンはやっぱり天才だ。
ラスト・ナンバー“Riders On The Storm”の哀しげな旋律と、ジムの深みのある声とあわせて永遠なり。


3 COMMENTS

雅之

おはようございます。

現代のクラシックは作曲家と演奏家が完全に分業になってしまっていますが、それに飽き足りないひとにぎりの演奏家は、再現芸術であっても、「解釈」という擬似作曲行為を極めたくなるのだと思います。

>ジム・モリスンはパリで客死し、ショパンと同じペール・ラシェーズ墓地に葬られているわけだから何かしらの因縁はあるのだろう・・・。

なるほど。歴史を縦軸と横軸の両方で見ると、いろんな発見ができますよね。

ジム・モリスンは、 キース・リチャーズ、ジョージ・ハリスン、ヴァンゲリス、ウェルナー・ヒンク、マリス・ヤンソンス、リチャード・グード、ミック・ジャガー、サルヴァトール・アダモ、 ジョン・デンバー、と同い年ですか。
http://ja.wikipedia.org/wiki/1943%E5%B9%B4

またジム・モリスンとシベリウスは誕生日が同じ12月8日です。

1932年9月30日という同じ日に、五木寛之と石原慎太郎が生まれていますが、グレン・グールド、ピアニストがその二日前に生まれていたってご存知でしたか?
http://ja.wikipedia.org/wiki/1932%E5%B9%B4

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。

>再現芸術であっても、「解釈」という擬似作曲行為を極めたくなるのだと思います。

おっしゃるとおりですね。この点については本当に是非が問われるところですが、僕は間違いなく「是」です。
音楽を聴く楽しみが倍増します(その意味でポピュラーミュージックのライヴ演奏というのは面白いです)。

>歴史を縦軸と横軸の両方で見ると、いろんな発見ができますよね。

そうなんですよね。ジム・モリスンとシベリウスが誕生日が同じだったとは知りませんでした。
それと真珠湾攻撃から2年目なんですね。(生きていたら来年70歳ですか!)

>グレン・グールド、ピアニストがその二日前に生まれていたってご存知でしたか?

あれま!
先の2人は有名な話なので知っておりましたが、グールドも近いとは驚きです。
ありがとうございます。

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アレグロ・コン・ブリオ~第5章 » Blog Archive » レイ・マンザレク追悼 The Doors:In Concert

[…] そして、ラストは”The End”。この破壊力は・・・、不滅(ヴェルヴェッツのそれと双璧)。言うことなし・・・。 ところで、ドアーズのアルバムは最後の”L.A. Woman”をのぞいてポール・A・ロスチャイルドがプロデュースしているが、彼はいわゆる「赤い楯」の人なのだろうか・・・。 […]

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