
少年の頃、よく聴いていた「乙女の祈り」。
病弱だったため、わずか38歳で亡くなったポーランドの女流テクラ・バダジェフスカの作品。今ではインターネットを駆使して情報を得ることは容易いが、父に初めてレコードを買ってもらった70年代後半は、ただ「乙女の祈り」の作曲家という認識しかなく(調べるにもその術がほとんどなかった)、僕もそれほど作曲家の人となりに興味を持っていたわけではないので、何も知らずにただ音楽そのものだけに親しみ、今日まで来た。
(どうやら彼女の作品は第二次大戦中にほとんどが焼失したため、世界的に詳細を知る術がないようだ)
東芝エンジェルの廉価盤セラフィム・シリーズの1枚を半世紀近い時を経て、聴いた。
てっきりポミエの演奏によるアルバムだと思っていたが、ティエリ・ド・ブリュノフというピアニストと収録曲の半分ずつを受け持っていたようだ。
(同じように昔を思い出し、この音盤について書かれていたブログ記事があった)

ティエリ・ド・ブリュノフというピアニストのことも当時は詳細不明だったそうだが、今では多少情報は入手できる(90歳で今も健在のよう。我が父と同い年だ)。


彼は「象のババール」の作者であるジャン・ド・ブリュノフとセシル・ド・ブリュノフの息子で、11歳からコルトーに、その後はエトヴィン・フィッシャーにも師事し、パリのエコール・ノルマル音楽院で10年以上教鞭を執ったという。
1974年にベネディクト会の修道士になったが、2004年、そのことについて彼は次のような言葉を友人に書き送っている。
神が存在するなら喜んですべてを捧げなければならないと思えたんだ。「すべて」という言葉のなかには音楽もあった。なぜなら、音楽は私のすべてを内包しているからだ。音楽は、私の宇宙であり、私の呼吸であり、私の言葉であり、また他者との交わりであり、自己という贈り物だ。神は私にとってそれらすべて以上の存在であるように思ったのだ。
果して彼の演奏に、それほどの信仰心を感じ取れるかというと正直「否」だが(?)、それでもクープランの「修道女モニカ」などは確かに可憐な響きの内に敬虔な音調を醸しており、当時とても良い曲だと思った記憶がある。
少なくともアルバム収録の6曲を聴く限り、演奏そのものはポミエの演奏同様、とてもオーソドックスで、クラシック音楽入門編としては格好の出来だと思う(その昔、僕はこのレコードを繰り返し聴いて、音楽に目覚めていったのだった)。懐かしい。