思ったより真面な(?)演奏会だった。
前回の公演は本当に賛否両論だった。3時間半を超えるリサイタルの途中で帰ってしまう人が続出したというくらい、受け容れ難い人にとってはあまりに唯我独尊的なステージだった。そのことに誰かの忠告があったのか、あるいは自身で反省したのかわからないが、ともかく時間的には至極真っ当、全プログラムの終了時刻が21:18頃だったのだからああいう舞台を期待していた輩からしてみると少々肩透かしを食らった感のある、そんなひと時だった。
18:30定刻に開場。しかし、舞台上では帽子を深くかぶり、ラフな格好でピアノに向かうポゴレリッチの姿(一昨日も同じような光景が見られた)。何の曲なのか、ひょっとすると指慣らし的に思いつくまま弾いているのか、そのあたりは定かでないが、とにかく開演ぎりぎりまで続けられた。業を煮やしたスタッフが、途中2回そろそろ止めるように忠告に来たくらい彼は集中していた。ようやく袖に下がったのが18:50過ぎ。これから着替えてとなるとおそらく開演は予定時刻を過ぎるだろう・・・。
イーヴォ・ポゴレリッチ~レジェンダリー・ロマンティックス
第二夜・ソロ・リサイタル
2012年5月9日(水)19:00開演
サントリーホール
ショパン:ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調作品35「葬送」
リスト:メフィスト・ワルツ第1番S.514
休憩
ショパン:ノクターンハ短調作品48-1
リスト:ピアノ・ソナタロ短調S.178
イーヴォ・ポゴレリッチ(ピアノ)
エトス(精神・気風)、パトス(感情、共感)、そしてロゴス(理性、論理)の三位一体。
ショパンの葬送ソナタが始まるや、あくまで「調和」がテーマになっているのだということに気づかされる。速いパッセージはより速く、遅い部分は極限まで遅く、しかもその両面が見事に意味を持ってひとつになる様。正直僕はもっと過激な表現を期待していた。でも、それは裏切られた。ポゴレリッチにしては「普通な」ショパンがそこにあった(決して普通じゃないのだけれど・・・)。第3楽章のテーマなど吃驚するほどそっけなく弾かれる。フィナーレもやっぱり嵐の如く過ぎ去る。そんな音楽に僕は感激した。
メフィスト・ワルツは独特だ。通常の1.5倍はかかっているだろう。前半だけで約1時間。そう考えると異常だが、体感上はそうは感じられなかったところが神業。ポゴレリッチは明らかに深化している。聴衆の数も物語る。おそらく半分から6割ぐらいしか埋まらない会場には、見事に彼の芸術を信奉する信者しか集まっていなかった(のでは・・・?)。だからコミュニケーションは容易なのである。ピアニストは俄然集中した。そして我々オーディエンスに、「これは単なるピアノ・リサイタルではないのだよ」と語りかけた。
なるほど確かに舞台上は、よくよく見ると、まるでオーケストラが配置されるかのように後方のせり出しが上がっていたのである。これはある種のメタファーか。最初からポゴレリッチは訴えかけていたのか。あくまで交響的音楽を自分は創っているのだと。
後半のノクターンは一体どこのメロディーを弾いているのかわからなかくならなかった。こういうところが今回の凄いところ(少なくとも2010年は曲によってどこの部分を弾いているのか見失うことが多かった)。真骨頂はリストのソナタ。もうこれは言葉で表現できない高みに到達している。音の一粒一粒に意味づけがあり、一切の弛緩なく、とはいえポゴレリッチらしい独自の表現が展開された。そう、一つのシンフォニーがピアニストひとりによって再現された、そんな究極の演奏が見られた。多分1時間10分ほどが後半に割かれた時間だから、ソナタは45分か50分か、それくらいのものだったのだろう。しかし、一切「時間」を感じさせなかった。本当に見事だ。で、やはり僕は彼を擁護したい。決して「気狂い」ではないと(笑)。
あの舞台、譜めくり君は大変だろうと想像する。極度の緊張を強いられる一世一代のステージ。勉強になるだろうな・・・。いや、素晴らしかった。
おはようございます。
なるほど!!
ピアノ・リサイタルの会場としては、しらかわホール
http://www.shirakawa-hall.com/zaseki.html
の規模が大きなサントリーホールより断然上だと思っていますし、これは名古屋公演が大いに楽しみになりました。
※5月4日に、職場の同僚で隣席の女性がサントリーホールデビューしまして(ヴァイオリン)、
http://blog.livedoor.jp/smj_ohkanda/archives/51823695.html
聴きに行った人達の間で大評判で、土産話が羨ましくて悔しくて(笑)。
練習に誘われてたんですが、最近、あと一歩が踏み出せないのです(涙)・・・。
>雅之様
おはようございます。
ポゴレリッチの演奏はまさにしらかわオール向きだと僕も思います。
実際、2年前は満員だったホールも今年は5,6割という感じでした(涙)。
しかし、先入観はやっぱり危険ですね。今年のポゴレリッチは、やっぱりポゴレリッチに違いないのですが、理解可能な範囲でしたから(笑)。でも、ひょっとすると名古屋では違った表現になるのかもしれませんね。感想等またお願いします。
あと、ご紹介の三井住友海上管のプログラム面白そうですね。
そうですか、そんなに素晴らしかったですか。
知っていれば行きたかったです。
>最近、あと一歩が踏み出せないのです
是非その一歩を!
雅之さんがステージに乗られるコンサートには行きますよ!
[…] 昨晩、イーヴォ・ポゴレリッチのソロ・リサイタルを聴いて感じたこと。このピアニストも日々苦悩し、三歩進んで二歩下がり、自分の中心軸を確固としたものにしようとしているんだ […]
[…] イーヴォ・ポゴレリッチ~第二夜・ソロ Recent CommentsLed Zeppelin DVD に 岡本 浩和 より全体観と複雑性理解力~Miles In The Sky に 岡本 浩和 よりLed Zeppelin DVD に 雅之 より全体観と複雑性理解力 […]
[…] いやはや、早朝から深夜まで出ずっぱりだとやっぱり相当に疲弊する。 歳か・・・(苦笑)。 酔いが回って帰宅は午前様。とても音楽などという状況でなく、どちらかというとすぐにでも布団にもぐりこみたいという思いなのだが、日頃の癖で何か耳にしないと眠れない。 朦朧とした脳みそに手っ取り早いところで、考えなくて心に沁み込むものと言えば、僕の場合はショパン(まぁ、賛否両論だろうが、あくまで僕の場合)。 先日も、ポゴレリッチの「葬送」ソナタを聴いてぶっ飛んだ。過去に前例がなく、亜流も作らない天才こそがショパンその人だと相変わらず僕は信ずる。 深夜に、アルフレッド・コルトーの弾く前奏曲集を聴きながら、そう、たった今響いているのは第7番のそれ。あまりに切ない・・・。 […]
[…] えたのだろうか(笑)。 適度に遊び心があり、しかも熱心で保守的なクラシック愛好家を敵に回すことなく(最近のポゴレリッチなどは行き過ぎるから逆の現象が起こっているけど)。 […]